第39話

練習試合開始
8,240
2022/07/15 12:00
直井「あなた、ちょっと向こうの監督さん達と話してくるけど、お前どうする?」


あなた「あ……私は、」


黒尾「花野井さんはボール出し、ね。」









気遣って声を掛けてくれた学兄と、その向こうでヘラッと笑って手招きをする黒尾先輩。



"大丈夫だ"と頷いて、コートに入った。











黒尾「ボール渡してくれたらいいから。左手こうやって出したら、1つずつ置いていって。」


あなた「は、はい。」











初めてちゃんと、マネージャーらしい事をする気がする。




孤爪くん以外の人とあまり話せていなかった事もあり、スコア付けや応急処置、ドリンク作りくらいしかしてこなかったから……。










黒尾「っしゃ回れぇ!」


「「「「うぃーす!!!」」」」









黒尾先輩がボールを打ち、皆がそれをレシーブして返していく。




近くで聞くと音が凄い……。








感動もしてられない。



急いで籠からボールを出して、渡していく。






皆はボールを片手で難なく掴むけど、手が小さいからかやっぱり難しい。






両手で拾い上げて、それを渡す。










一通り練習が終わって、それぞれチームが集まった。








だ。










黒尾「"俺たちは血液だ 滞りなく流れろ 酸素を回せ 脳が正常に働くために!"」









"脳"






見ていれば分かる。





孤爪くんこそが、音駒の"脳"。






そして試合を見ていて実感する。







滞りなく流れている血液と、その滑らかさ。








だから彼らは________強い。














黒尾「いくぞ!」


「「「「おぉっす!!!!」」」」













不思議と、負ける予感がしなかった。












孤爪「クロ、今のやめない?なんか恥ずかしい……。」


山本「いいじゃねぇか!雰囲気雰囲気っ!」


海「自分らへの暗示みたいなもんだ。」


あなた「わ、私も……カッコいい、と思う。」


黒尾「と いうことで。」










孤爪くんは不服そうに肩を落としたけど、私はやっぱりカッコいいと思う。




チームに合ってる、って。













ピーッ!











直井「ではこれより、烏野高校対音駒高校の練習試合を始めます!」











挨拶して、それぞれコートに入る。






力……出てないんだ。







部活にいつの間にか戻っていた事もそうだけど、私は今の力を何も知らない。




……いいや、知ることから逃げている。








気になる事はあるけれど、今は試合に集中しないといけない。










怪我、とか……して欲しくないし、













あなた「、え……あそこって、ミドルブロッカー?」


猫又「こりゃまた、ちっこいのを置いとるのぉ。」













さっきのオレンジ髪の子。





孤爪くんは彼を"翔陽"と呼んだ。






チームの人との関わり方を見ている感じ、1年生なんだろうけど……。





しっかりレギュラーに入っているところを見ると、実力は本物なのだろう。









孤爪くんのサーブから、試合は始まった。











「すまんちょい短いっ!」


西谷「旭さん1ヶ月もサボるから!!」


「すみません……!」










影山くんが、高く上がったボールの下に入る。




キュッ、と音がして、それがボールの落下地点をいち早く見極めている証拠だと分かった。









どこに落ちるかだなんて、そんなにすぐに分かるものなのかな……?









その疑問は、すぐに解決した。







影山くんが凄いのだ、と。












瞬く間に上げられたトスはいつの間にか飛んでいた"翔陽"くんの手に吸い込まれるように収まり、コートに突き刺さったのだ。










猫又「なんだありゃあ、トス見てねぇじゃねぇか……!」


あなた「っえ、見てなかったんですか……!?」










気付かなかった。



という事は……?スイングの瞬間に丁度収まるように、トスを上げたのか。






そんな事、出来るものなの……?









どうやら、オレンジ髪の"翔陽"くんと影山くんを筆頭に、烏野の攻撃は出来上がっているようだ。












芝山「も、もし分からない事とかあれば、言ってください、ね!」


あなた「あ、ありがとう……、」












ベンチ横に立っている芝山くんに声をかけられて、頭を下げた。




勉強はしたけど……目の前で繰り広げられる攻撃は体育で見るそれとは全然違っていて……。







スコアを付けるのに精一杯。







分かった事は、"翔陽"くんは日向翔陽くんだ、という事。




影山くん……「日向ボゲェ!」しか言わないんだもん。










タイムアウトを取って、円になって集まった。











猫又「リベロもスパイカーも良いのがいるな。中でも1番とんでもねぇのはセッターだ。」












セッター________影山くんの事、だよね。





やっぱり、あんなトス誰にでも出来るものじゃないんだろう。












猫又「あれはバケモンだな。スパイカーの最高打点への最速トス。針の穴を通すコントロールだ。……まぁ、天才はしょうがねぇ。____が、天才が1人混じった所でそれだけじゃ勝てはしないのさ。」











視線は孤爪くんの方へ。


 
視線を逸らして、だけどすぐに、言葉を繋いだ。












孤爪「翔陽が攻撃の軸なら、翔陽を止めちゃえばいい。」


山本「翔陽??」


黒尾「あのすばしっこい10番。」


猫又「あの9番と10番は言わば____"鬼"とその"金棒"。まずは鬼から金棒を奪う。」









対策が早い。



飲み込みも、それをプレーに繋げる力も。






常に冷静で、相手の様子を虎視眈々と伺うその様子は……まるで百獣の王のようで。













多分私はとっくに、音駒のバレーにのめり込んでいる。

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