第43話

0から1までの距離
1,824
2022/08/28 12:00
烏野の主将さんと先生が駆け付けて、山田先輩は連れて行かれた。



残った静かな空間は、まだ現実味を帯びていなくて。







終わったんだ。




本当に、全部……。













黒尾「どこ触られた。」


あなた「、え?」














早口に尋ねられ、質問を理解して頭を巡らせる。




正直、助けを呼ぶ事に必死で何も覚えていない。






ただ、まだ感覚が残っている首元に手を当てて俯いた。









自分の足だけが見えるその視界に、映り込んだのは2人分の足。














あなた「________〜ッ、!」














顔を上げると、2人は深く頭を下げて。






声を絞り出した。











田中「……ごめん、俺たち、何も知らずにひでぇ事!」


西谷「取り返しつかねェ事したって分かってる。謝って許してもらおうとなんて思わないけど……せめて殴ってくれ!!」


縁下「田中、西谷…………、」











この2人は、いつも真っ直ぐで。





馬鹿正直で素直で、裏表がなくて。





ずっと、変わらない。











西谷「いくら憎まれても________、」


あなた「2人を憎んだ事なんてないよ。」


田中「…………ぇ、?」


 







ただ、慕う相手を守りたかっただけだって、分かってる。




真っ直ぐ信じて、疑ったりなんかしなくて。













あなた「ほんと……馬鹿みたいに真っ直ぐだもんね。それが2人の良いとこでしょっ。」












だから笑ってみせた。





こんな事があったからって、人を疑うようにはなってほしくない。






烏野バレー部の皆がいい人だって分かった。






だったら、私みたいに人間関係で悩んでほしくなんかないから。









 
2人は深刻そうな顔をして俯いて、そしてギュッと唇を噛み締め、再度頭を下げた。












黒尾「________いや、許されないだろ。」


田中「……、!」












2人に背を向けたまま、ジャージの袖口で私の首元をグイッと拭った。












あなた「…………く、ろお先輩……、?」


黒尾「_______許すなよ。そんな簡単に……。」













どうして、黒尾先輩がそんな哀しい顔をするのだろうか。





どうしてこんなにも、胸が締め付けられるのだろうか。











あなた「黒尾先輩と孤爪くんが、私を信じてくれたみたいに……。」


黒尾「……。」


あなた「西谷くん達は、山田先輩を信じたんです。……ただ、それだけの事。」












そう。





至ってシンプルだ。







慕う人を信じ、守り、敵を遠ざけようとした。






2人は当然のことをしたまでで、ただそこに、1つの誤解があっただけ。












孤爪「綺麗にはならないよ。」


あなた「……、」


孤爪「解決しても、いくら仲直りしても……今まであった事、花野井さんの気持ちや恐怖は、ずっと残り続ける。それだけの事をしたんだ。」


田中「………………。」












ずっと……。



この先、ずっと、今のまま。






男の人を怖がって、忌み嫌って。







怯えて生きていくことになるのだろうか。










________いいや。











あなた「……私にとって。」


孤爪「……。」


あなた「今日、"助けて"って、口に出来たこと……それが、何より大きな一歩なの。」











誰も信じてくれない。





誰も、助けてなんてくれない。







そうやって諦めていた私が、もう絶対、出来ないと思っていた事ができた。







信じられない。







それは紛れもない、2人のおかげだ。















私にとって、何より大きな一歩。










それを、踏み出す勇気をくれたのは__________













あなた「2人に出会えたから、私は変われる気がする……変わろうと、思えた。だから、」















怖い思いをして、またトラウマを思い出して。





だけど何故か今は、不思議と心が落ちついていて。















あなた「"ありがとう"っ。」


黒尾「______ッ、」


孤爪「………………!」













黒尾先輩の言っていた"笑顔"って、これの事だったんだろうな。





久しぶりに、男の人にこんな笑顔を向けられた気がする。












0から、一歩踏み出せた。











私の人生は、ここからまた______スタートする。

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