第79話

公園での特訓
3,829
2023/12/27 12:00
岩泉𝓈𝒾𝒹𝑒.°







 


入畑「ストレッチ念入りに〜。」


「「うぃーーす」」










監督が体育館から出て行き、3年組で集まり体をほぐす。




時計を確認すると、おおかた予想通りの時間。





間に合いそうだな。










及川「ふんふふ〜ふぅ〜ん♪」


花巻「なんだよ及川、上機嫌でキモいぞ。」











呑気に鼻歌交じりの幼馴染は、普段通りチームメイトに嫌な顔をされてヘラっと笑う。













及川「まぁね〜。」


松川「なんだよ、なんかあんの?今日。」












おそらくこの後の予定だろう。





ほんとコイツ、女の事になるとダメだな。







…………いや、特にあなたに対しては、多分、











及川「花野井ちゃんとデートなの!」


花巻「は?」


岩泉「ちげぇだろ。」








嬉しそうに作ったピースサインを片手でへし折って、その頭をこづいた。










松川「なに、今日も会うの?」


岩泉「まぁな。走るの教えて欲しいんだと。」













あの後。





何かしてやれることはないかと尋ねた俺に、あなたは色々悩んだ様子を見せつつもようやく言葉にした。













『体育祭の、リレーに出るんですけど……。特別足が速いわけでもないので、足を引っ張りたくなくて、』












中学の頃の体育祭を思い返すと、本人が言うほど遅いわけではなかったはず。






それでも、足を引っ張らない努力はしておきたいと。









俺はあの頃からずっと大体ブロック対抗のリレーには出ていたし、アンカーで1位ゴールをすることも多かった。





それを覚えていたんだろう。












『俺の指導は厳しいぞ?』


『うっ……受けて立ちます、!』










冗談まじりに言った言葉に素直に返してきたので、とりあえず今日の部活が終わってアイツが東京に帰るまでの間、教える事になった。





及川はくっついて来ると言って聞かないので、仕方なく。













花巻「え、それ俺も行きたい。」


岩泉「花巻も?」


花巻「もっと花野井さんと話してみたいんだよなー。ダメ?」


岩泉「あぁ……、」











嫌がるような奴でもねぇか。




了承しようとしたところに、松川がゴホンと咳き込んだ。











松川「あー……あのさ、俺らはとりあえず、今日はやめとかね?」


花巻「なんで?」


松川「んー…………俺の勘違い、って訳でもないと思うんだよね。」


岩泉「??」










松川は、少しショックそうな顔をした花巻に苦笑しつつ昨日の話をした。





昨日、ラーメンが来る前にあなたと松川が席を立った時。













花巻「…………え、松川を怖がったってこと?なんかしたの?」


松川「いや……"俺を"って言うより、」


















______"男" を


















及川「__________ハハッ、何言ってんのまっつん。」













「そんな訳ないでしょ、」と笑い飛ばそうとする及川の表情にはどこか、勘繰られる部分があるかのような色が見受けられる。






男を…………、











中学の頃のアイツからしたら、到底信じられないようなその発言。








ただもし、それが本当だったとしたら________





















何故

























花野井 あなた
公園向かいます










部活が終わってあなたに連絡すると、昨日約束した公園に向かってくれると返信。






俺たちも急足で目的地に向かう。









今日の夕方には発つらしいし、悠長にはしていられない。









及川「______ねぇ岩ちゃん、どう思う?」


岩泉「…………どっちみち、本人に聞く他ないだろ。」












松川の言っていたことが本当であれ勘違いであれ、俺たちがあなたに何も言われない限りそれは憶測に過ぎない。













話を、聞くしかない。
















あなた 𝓈𝒾𝒹𝑒.°












岩泉「足!!かかと上げろ!腕は突き出せ!」


及川「花野井ちゃんがんば〜!」













腕を組んで鬼コーチぶりを発揮している岩泉先輩の隣で、ニヤニヤ楽しそうに笑う及川徹。







必死に足を回しながら、横目で睨んだ。











岩泉先輩に何か出来ることはないかと聞かれて、思いついたのはこれだった。









勝ちを狙いにいっているというブロック対抗リレー。





私が足を引っ張るわけにはいかない。








それに…………、

















いつも、私なんかを助けてくれる赤司先輩に。








最後の体育祭は、優勝してほしい。











私に出来るせめてもの恩返しは多分、全力で足を引っ張らない努力をすることだから。

















及川「はい、及川さんから愛のこもった差し入れだよ〜!」


あなた「こもってないやつありませんか。」


及川「ない!!」










満面の笑みでスポーツドリンクを差し出されるので仕方なくお礼を言って受け取って、乾いた喉を潤した。





もうすぐ帰らないと……。











流石岩泉先輩。






中学の頃、リレーと言ったらこの人だった。







いっつもチームを1位に引き上げてくれて、その瞬間は岩泉先輩がこの世界の主役で。








カッコいいって、憧れてた。










そんな岩泉先輩が教えてくれる早く走るコツは、私にしっかりと定着した。








あっちに帰ってもしっかり練習しよう……。














あなた「………………、?なんですか?」















ペットボトルのキャップを閉めながら、ベンチに座る2人の異様な視線に気が付いた。





首を傾げると、「あ、いや……。」と口ごもる。















及川「い、岩ちゃん聞いてよ……。」


岩泉「はぁ?お前が気になってんだろ!」


あなた「??」












何やらゴソゴソ口喧嘩を始めたので、少し離れてブランコに腰掛けた。




明日絶対筋肉痛だ……。










と、公園の入り口の方から聞こえてくる話し声が耳に入る。






数人組の高校生くらいの男の子たちで、バスケットボールを片手にワイワイと楽しそうに入ってきた。
















あなた「……………、」


?「じゃー3on3な!負け組飯奢れ!」
















野太い声に、身がすくむ。






これが条件反射になってしまっている私の身体は、心臓をキュッと縮めて視界を歪めた。
















?「荷物こっち________って、」














スポーツバッグをベンチの方に置こうとした彼らは、岩泉先輩たちを見て私の座っているブランコの方へと方向を変えた。






横目で恐る恐る負けた視線が、先頭を歩く彼と交わる。
















?「________あれ、え、嘘。あなた?」


あなた「〜ッ、」












名前を呼ばれて顔を挙げると、見知った顔。









烏野の……バスケ部、















『________俺のモノになれよ。』















あなた「〜ッ、ぅ……あ、」


岩泉「!?」


?「っおい!!ちょ、待っ________、」














突然フラッシュバックしてきたあの人の顔。











途端に血の気が引いて、思わずその場から逃げ出した。

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