第80話

変わった理由
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2024/01/28 12:00
岩泉𝓈𝒾𝒹𝑒.°








中学2年の頃。





及川目当てに集まってきていた北川第一の女子生徒の中に、ソイツはいた。










部活でも、普段の学校生活でも。





しょっちゅう見かけるようになったな、と顔を覚え始めた辺りで、なんの気まぐれか、及川が自分から話しかけた。












『最近よく練習見にきてくれてるよね?バレー好きなの?』















話しかけられたことに驚いた様子を見せて、周りでキャーキャーと騒いでいる友人達を気にしながら、その頬を赤く染めた。





やっぱ俺、及川の何が良いのかさっぱりだ。













『及川、お前最近あなたちゃんと仲良いんだってー?』


『あなたちゃん??』











同じクラスの奴にそう言われて初めて、その子の名前を知った。






それは、及川も同じようだった。









そりゃあ、一回廊下で話しかけたくらいで仲が良いと言われても。







理由はすぐに分かった。











花野井あなた。







1つ下の学年で、他学年からも認知されるレベルの人気者。








確かに言われてみれば、1人で居る所を見たことがない。








いつも数人の男女に囲まれていて、その中心で溌剌と笑っていて。










順風満帆な学生生活を送っているようだった。









余計に、なんで及川なんかをって思ったけど。













彼女とは、及川と俺が一緒にいる時に会うことが多かった。







照れくさいからか及川ではなく俺とばかり目が合う彼女と、俺も次第に打ち解けるようになっていった。











きっかけは、俺が部活で突き指をした日。







救急箱の中にテーピングも何もなくて、冷やすついでに保健室に行った俺は、いつも通り練習を見にきていた彼女に呼び止められた。














『あの……良かったら、手当させてもらえませんか?』


『え…………できんの?』


『応急手当、勉強してます!』










物凄い意気込みに、思わず了承した。







俺じゃなくて、及川見てれば良いのに。












一緒に保健室まで行って、保健の先生は彼女を見るとすぐに表情に花咲かせた。







どうやら勉強しているのは本当だったらしく、促されるまま椅子に座り、テキパキと準備をする彼女を見守った。














『…………なんで?』


『え?』


『なんで、手当の勉強してんの?』










俺の純粋な疑問に、困ったように視線を揺らす。







そして、『好きだから……ですかね、』と言葉を濁した。









 
『……岩泉先輩は、なんでバレーなんですか?』


『なんでって?」


『スポーツにも、色々あるじゃないですか。私、バレー見るの初めてで。』


『なんで……か。なんか、気付いたらボールに触ってたんだよな。だからあんまり覚えてねェ。』















俺の話を、興味津々であるかのように聞いていた。





俺に興味なんてないだろうに、それでそれで、と、会話を掘り下げる。








及川について知りたいんだろうか。











好きな食べ物でも教えてやろうかと尋ねると、思い切り首を振られた。












『私今、岩泉先輩と話してるんです!及川先輩じゃなくてっ。』
 













別に俺なんか、相手にしなくて良いのに。






及川と、小学生の頃からずっと一緒いるからこそ分かる。









及川はこの子に、少しずつ惹かれて行っている。








このままいけばうまく行くのに、なんで俺に時間を費やすんだ。













だけど、彼女との会話は楽しくて飽きなくて、人懐こい彼女の性格も相まって、俺も無碍にはできなかった。






可愛い後輩。









及川とうまくいくように、手を貸してやろうかとも思っていたけど。








いつしか、俺は俺自身が、彼女と話すことを楽しみにしていた。

















アイツが、些細な理由からあんな風になんかなる訳ない。




俺が1番分かってる。











スポーツ用品店で再会した時に一緒にいた烏野の2年の奴が、「大丈夫か?」と聞いていた理由は恐らくこれだ。





だとしたらアイツは、知っていた。










あなたに何があったのか。





何故、男を怖がるようになってしまったのか。












俺は何も…………知らないのに。



























及川「どこ行っちゃったんだろ……もう暗いし心配だよ、」


岩泉「………………。」


及川「岩ちゃんは……気付いてた?」


岩泉「……いや。」













公園に来た奴らに見せた、あの表情。








"恐怖"













何があなたを、そう変えてしまったのか。

































及川「っ、岩ちゃん。」


岩泉「!」














探し回って歩き回った末、公園から5分ほど離れた自販機の近くのベンチに、膝を抱えて座っていた。









俺たちの歩み寄る足音に肩を跳ね上げて、顔を上げる。













及川「花野井……ちゃん、」














今にも壊れてしまいそうな表情と、潤んだ瞳は。






あの頃絶対、見たことのない花野井あなただった。





















岩泉「…………隣、座らねェ方がいいか?」












尋ねると、小さく首を横に振った。










人1人分空けて俺が座り、及川は自販機前で財布を出した。












及川「…………。」


岩泉「…………。」


あなた「_______ごめんなさい、」














掠れた声。







そういえば、あなたは昨日のラーメン屋でも少し、様子がおかしかった。






なぜ気が付かなかった。








あんなにも人懐っこくて物おじしなくて、誰とでもすぐに打ち解けてしまうようなアイツが。










花巻たちに話しかけられて、あんな対応するはずない。























岩泉「___________話してくれ。」


あなた「、」


及川「…………何があったの?」














ゆっくりと、俺たち2人の顔を見上げて。











唇をキュッと、噛み締めた。

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