うらたside
「しばらく帰らないから。」
そう言い残して坂田が出て行ってから3週間。坂田はまだ帰ってこない。
部屋は散らかり、毎日ソファで涙を流す日々。ご飯もろくに食べていない。
「さいご…いつご飯食べたっけ…」
誰もいないと、返事はないとわかっているが、声に出す。声を出したのも何日ぶりだろう。
坂田との思い出を捨てようとしても捨てられない、中途半端なおもいがぐるぐるして、部屋を荒らすが、虚しさだけが残る。
そんな毎日を過ごしていた。
ピロンッ
携帯の通知音が鳴った。
坂田からだったら、別れようと言われたら、と頭の中でぐるぐる回り、坂田が出ていってから一度も触っていない。チャイムも、電話も、坂田だったらと怖くて出ていない。
帰ってきて欲しいと思っているのに、矛盾していることは分かっている。それでも、怖いんだ。
「ああああああっ!!」 バサバサッ
棚を前後ろに揺すると色んなものがものが落ちる。
カランッ
「…これ。」
手に取ったものは カッター …だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!