前の話
一覧へ
次の話

第7話

異変
296
2019/06/03 13:18
「1、2...」
汗が滴り落ちていく。腹筋が痛いほどに熱を帯びていくのを感じる。

やっとこさ30回を息も絶え絶えにやり遂げぜーはー言っている私を横目に、男子達は涼しい顔。コノヤロウ。
私は八つ当たりに彼らを睨みつけ、深く息を吸った。

何故腹筋をしているか。それはボーカルのためである。歌を歌うための呼吸があってそれを...ってあーだこーだ細かく説明されたあと、志麻くんに一言言われたのである。
「ま、要するに腹筋しろってこった」
ぴしゃぁん。
日狩 りおん、人生最大の衝撃。

ライブ中に折れないか心配になって...などという意味不明な心配をされ、腹筋をさせられている訳だが。
...腹筋ってこんな辛かったんだ...

肩で息をしながら運動部に所属している全ての学生達に心の中で手を合わせた。
どっはあああああ、などと意味のわからない声を上げながら私は倒れ込む。途端、心臓が痛んだ。
「っ!」
無論声など挙げられるはずもなく、目を見開き胸を押さえることしか出来ない。

どうしたー、もう限界かー?などと若干小馬鹿にしたような声が聞こえてくるが、返事もままならない。
もしかして、来たのか。
タイムリミット。
まさか。
こんなタイミングで。
返事をしない私に違和感を覚えたのか、どうした?大丈夫?そんなにしんどかったん?などと口々に言いながら4人が覗き込んでくる。
まずい。このままじゃ私、
死ぬ。
そう思った瞬間、私は心臓の痛みと共にありえない感情が私の中に流れ込んでくるのを感じた。
そんなの...そんなの嫌だ。
死にたくない。
まだ生きていたい、まだこの4人と一緒にいたい。
冷たくなっていく体。
やっとこさ言葉に出せたのは
「きゅう...きゅう...」
という意味不明な言葉。
死にたくないよ。
すると坂田くんがはっと息を呑んで突然怒鳴った。

「スマホ持ってる奴救急車呼べ!あと保健の先生呼んでこい!」

え、まじ?そんなやばい?などと困惑や焦りの声が聞こえる。

歪む視界に映った最後の記憶は、大丈夫か?!と私の目を覗き込み叫ぶ、美しい赤色だった。

プリ小説オーディオドラマ