昨日と何ら変わらず眩しいばかりの笑顔を放つ坂田くん。
「なんでってそりゃ、家がこっちやからなぁ」
声掛けても反応無かったからなんやろと思ったら、イヤフォンはめとったんか、とかなんとか、私の衝撃にも一切動じずペラペラと1人で喋っていく坂田くん。
「いやーあなたちゃんと同じ方向やったんやなぁ。よろしくな〜!」
にっこり微笑む坂田くん。楽しそうだn…じゃなくて!!
「今なんて...?」
「え?同じ方向やったんやなぁって」
「違う、その前」
「え?イヤフォン?」
「違う、もっと後!」
じれったくて思わず叫ぶ。
しばらくぽかんとしていた坂田くんは何やらニヤニヤしだした。
「なに?名前呼び嬉しかったん?」
まるでセクハラ親父のようにニヤつきながら寄ってくる坂田くん。
だって声似てるし...なんてそんなこと本人に言えるはずないけど。
思わず顔が熱くなる。推しのことを考えたからだ。決して名前呼びが嬉しかったとかではない。
図星だと思ったのか子供のように歓声を上げて私の名前を連呼する坂田くん。
「そっかそっかぁ、嬉しかったんかぁ...ってもしかしてあなたちゃんツンデレなん?!」
「え...別にそんなんじゃ...」
「そういうのツンデレ発言って言うんやでwww」
そう言って坂田くんは楽しそうに笑った。
そう言えば、と言って坂田くんは外した片方のイヤフォンを手に取る。
「さっきから何聞いとるん?」
あ。やば。イヤフォンには浦島坂田船の神曲、間違えた新曲が。
慌てて奪い取ろうとするが、坂田くんはひょいとかわしそのまま耳に入れてしまった。
咄嗟に線を引っ張り、坂田くんの耳からイヤフォンを外すことに成功する。
えっ、と一瞬目を見開き、私をまじまじと見る坂田くん。
「い、いや、別に坂田くんに聞かれたくないっていうわけじゃないって言うか、あの、」
人とほとんど喋ってこなかったコミュ障が見事に力を発揮し、私は笑うくらいどもってしまった。
さすがに一瞬だったし分からなかったはz
「もしかして聴いてるのって浦島坂田船の新曲?!」
「は?」
てっきり聞こえていないものだと思ったので、素っ頓狂な声を出してしまった。
え...聞こえてたのかよ...とあからさまな顔をしてしまい、坂田くんは声を出して笑った。
「アヒャヒャヒャヒャwwww聞こえてないと思っとった?wwてか一瞬だったから聞こえててもわからんはずとか思っとったやろwwwアヒャヒャwww」
いや笑い方独特かよ。
「....で、なんで坂田くんは浦島坂田船って分かったの?」
「え?そりゃだって...えーと...ファンやもん!浦島坂田船の!」
えーとってなんだえーとって。
どや、と効果音がつきそうな坂田くんの顔をみながら、
心の中で、何かがふっと緩むのを感じた。
そんなわけが無い、そう思いながら、私は心の何処かで坂田くんが坂田であることを期待していたのかもしれない。
あの曲かっこいいけど覚えづらいよなー、なんてほざく坂田くんを横目に、私は細く長く息を吐き出した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!