第2話

雁字搦め
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2019/03/10 12:37
「残念ですが、日狩さんは____」
「...」
病室内に重苦しい沈黙が降りた。
窓の外を満たす午後の麗らかな光は、冷たい病室の蛍光灯に阻まれる。

母も父も何も言わない。ここだけ時が止まったかのように静かだ。

その決定的な言葉が何度も頭の中で再生される。

私は、あと3ヶ月で____
避けられない運命というものがある。
人は皆、その運命に雁字搦めにされて生きているのだろう。

アルビノ。世界一美しい病気と呼ばれる病気。

先天性の、まさに運命とも言える、それはそれは美しく、儚く脆い病だ。
生まれた時からこの見た目の私は、幼い時から何となく「自分は周りと違う」ということは自覚していた。

どこに居たって怪奇の目で見られ指を指されひそひそ囁かれて...。

「あなたちゃんって____」
「あなたさんの見た目気持ち悪くない?」
「あの子、人間なの?」

どうしたって私の心は冷え切り、人を信じなくなっていった。

そんな私を両親はとても悲しそうに見、そしてなるべく私が笑顔になるように、たくさん工夫をしてくれた。今思えばそこで笑顔になれなかった私は最低な親不孝者だと思う。
そして宣告から5ヶ月の時が流れ、私は何故か高校生になっていた。

おかしいな。私もう死んでるはずなんだけど。あのヤブ医者め嘘つきやがったな。いやでもあの人私の主治医なんだけど。

当の医者も私の体を調べ回した挙句首を捻って一言、「分かりませんねぇ」。
舐めてんのかあの医者。
私も母も父もあの時の悲しみを返せとばかりに思いっきり医者を睨んだのだが分からないものは分からないのだからしょうがない。
アルビノとはメラニンが著しく不足することによって起こる一種の色素異常のことで、見た目以外の症状としては長時間日に当たることができない程度なのだが、私の場合何故かそこに体温がうまく制御出来ないという謎の症状が追加されていたのだ。

そして5ヶ月前。

突然激しく咳き込み出した私は、血を吐き、気を失った。
突然の血圧低下。不整脈。体温の低下。
慌てて両親が病院に連れていったところ、余命3ヶ月の宣告を受けた、というわけである。
そして私はもうすぐおさらばしなきゃいけないんだな、と思わず涙ぐんだ推しの曲を聴きながらもう二度と見ることのないだろうと思っていた桜を眺め、くぐることは無いだろうと思っていた地元の高校の校門をくぐり、受けずに済むのかと少し安堵していた高校の授業をちょっと落胆しながら受け一学期を過ごした。複雑である。

今も1週間に1度は通院し、私はいつ病魔に首を刈り取られてもおかしくない。

見た目のこともあって、そんな私に近づいてくる人は誰一人としていなかった。
そう、あの時までは。
「なぁ、髪の毛の色、綺麗やなぁ」

それは、ゴールデンウィーク明けの気だるい教室の中、やけに早い入道雲が空で自慢気にふんぞり返る5月のことだった。

「...え?」
光をこれでもかと言うほど浴び、まるで太陽みたいな笑顔で、そう声をかけてきたのは馬鹿みたいに綺麗な赤髪の転校生だった。

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