彼はその白くて細い手で、甚平のポケットをまさぐった
なえごらは躊躇いつつ、そっと右手を出した
そう言いながられいまるが見つめたのは、左手の薬指に光るもの
れいまるの手がなえごらの濡れた頬にそっと触れる
その手はもう、温もりを失っていた
ちりん____鈴が、なる
不安でしょうがなかった
今日こうやって会えたことですら、幻なのではないか、と疑っているのだから
そんななえごらを見てれいまるは小さく笑った
どちらからともなく近づいた顔は、二人の輪郭を曖昧にした
重なった影を、紫に染まった夕空だけが見守っていた
まるさんに背中を押されて、ゆっくりと足を動かす
ちりん____
最期に聞こえた鈴の音は、皮肉なほど綺麗で、そして...
温かい音がした
気がつくと、遠くで鳴る十八時のチャイムが、なえごらの耳に柔らかく染み込んでいた
鈴の音ではない。そのことに気づいて初めて、なえごらは現実へ引き戻されたのだと知った
気づけば、細道の真ん中にひとり立っていた
ふと後ろを振り返ると、そこにあったはずの、まるさんを追って下った階段は______
どこにもなかった
まるで最初から、ただの壁と雑草しか存在しなかったかのように、すべてが忽然と消えていた
あれは本当に現実だったのだろうか
そんな疑念がなえごらの胸を覆う
ふと、自分の手が視界に入る
左手の薬指が、夕日を受けてきらきらと光っていた
その小さな光だけが、疑念をそっと晴らしてくれた
あれは夢なんかじゃない、現実だ
自分は確かにまるさんに会って、そして、別れを告げたんだ___
そういえば、元々自分はみんなとお祭りに来ていたんだ
本来の約束を思い出したなえごらは祭りの会場へと向かった
ちりん____耳の奥で、何度も聞いた鈴の音が木霊する
細道を出た瞬間、ざわめきが一気に戻ってきた
ちょこぺろの視線が、なえごらの左手に落ちる
かすかに煌めく薬指と、その奥にある、どこかすっきりしたような顔
ちょこぺろは何も言わずにふい、と目を逸らした
賑わう人々の声と、祭り特有の音楽が、耳を満たす
四人は何事もなかったかのようにお祭りの会場へと向かった
ろぶすた〜とメロンが喋りながら先頭を歩き、その後ろにちょこぺろとなえごらが続く
なえごらは空を見つめてぽつりと呟いた
なえごらはそっと、自分の胸に手を当てた
ちりん____どこからか、鈴の音が聞こえた気がした
ちゃんと最後まで寿命を全うしてから会いに行ってあげるから
だからさ、ちゃんと見ててよ?まるさん
ぬくもりを失った己の手を見つめながら、そう呟いた
ただの独白のようにも、自身に言い聞かせているようにも聞こえた
この世界に生身の人間が来ることは危険だ
一歩間違えれば、現世から存在を消されてしまう
危険だと分かっていても、彼をここに連れてきてしまった
挙句の果てには、泣かせた
自分から誘っておいて、一方的に辛い別れを味わわせて____
ぽつりと、鳥居を見つめて呟いたその一言は、祭りの終わりを告げるお囃子の音にかき消された
鳥居が彼の体に大きな影を落とす
左手の薬指と頬を伝う雫だけが、沈む直前のまばゆい太陽の光を受けて輝いていた
本当につらい思いをしたのはなえごらだけなのだろうか
れいまるが姿を消してなえごらに近づいた本当の意図は何なのか
果たしてなえごらがこちらに来る際に見たのは、本当にれいまるだったのか
真相は、神様だけが知っている____
0️⃣ × 🦍 神隠しの真相 𝐹𝑖𝑛.












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!