自分でもビックリしていますよ。
こんな東京のど真ん中でまさか鹿と遭遇するなんて。
しかもそれが...ただの鹿じゃなかったんですよ。
続けて。
はい。
私が住んでるのは新宿ですよ。
そんな都会にまず鹿がいること自体おかしいじゃないですか。
だけど、私もその時は酔っ払っていましてね。
「鹿が襲ってきたらどうしよう」だなんて呑気に思いながら、鹿を避けようとしたんですよ。
なんせ帰る方向に鹿がいたんでね。
あなた はカメラの方に顔だけを向け、AdemaTVの視聴者に話しかけた。
視聴者の皆さんは鹿を見つけたら、その場で警察に連絡してくださいね。
あなたはゲストの方に顔を向き直して、話を続けるようにと手でジェスチャーをした。
それを見て、ゲストは話の続きを始めた。
そこで奇妙なことに気づいたんです。
鹿が目の前にいたときは、鹿は私にお尻を向けていたのですよ。顔をこちらに向けてね。
それなのに、私が鹿を横切ろうとしたときも私の視界に見えたのは、まだ鹿の尻。
それは奇妙ですねぇ。
おかしいでしょう?
尻を向けていた鹿の横を通ろうと思ったのだから、鹿の胴体が見えるはずですよね。
なのに見えてるのはお尻なんです。鹿の。
鹿があなたにお尻を見せつけているように思えるような話ですね。
ここまで話したら、たしかにそうとは思えるかもしれません。
ただ、お尻を見せつけようとしてるなら、
私の方にお尻を向けようと鹿が体を動かすはずですよね。
でも私には鹿が動いたようには見えなかった。
つまり...どの角度から見ても鹿のお尻が正面になって見えていた、ということでしょうか..
その通りです。
まるで3次元のこの世界で、唯一その鹿だけが2次元...平面になってるようでしたね。
まったく理解できませんね...
私も理解できません。ですが事実なのです。
とても奇妙な体験だと思いますが、私だったらその場ですぐ逃げ出してしまうと思います。
それでも、あなたは恐ろしさを感じず鹿のそばを通ったのでしょうか?
それが...
どうされたんですか?
気づいたら涙を流していたんです。
涙を...?
その鹿のお尻の形、ハート型をしてるんですが、それを見ていたら涙が溢れて来たのです。
悲しいとか嬉しいとか感情はないんです。
まるで誰かが私の体の中から無理矢理涙を押し出してるような感覚です。
その後どうされたのですか?
1分くらいで涙が止まったので、私がふと我に戻ったときにはもう鹿の尻は消えていました。
それであなたは家に帰ったと。
その通りです。ただ、私はまたどうしてもその鹿に会いたくなったのです。
鹿にというより、その鹿の尻を猛烈に見たくなったのです。
ただ、鹿は消えてしまいどこにいるかもわからないのですよね。どうやって見つけたんですか?
まずはインターネットで調べてみました。
「鹿 尻 涙」と。
まぁ、そう簡単には鹿の情報を得られず。
ツイッチャーでも検索したのですが、私と同じような体験のつぶやきはありませんでした。
つまり、あなたがその鹿の、鹿のお尻の初めての目撃者だということですね。
おそらく。
1ヶ月経っても鹿の情報が現れなかったので、私は自分の体験をツイッチャーとブログで発信してみることにしました。
すると不思議なことに、数日経ってから次々と同じ体験をしたというカキコミが増えて来たんです。
発信をした後から、突然鹿の尻の目撃者が出始めたわけですね。
そうなんです。
もう私は鹿の尻に会いたくて会いたくて仕方がなかった。
なにせ1ヶ月も鹿の尻を見てないのですから。
なので情報交換をするためにツイッチャーとブログで目撃者同士で集まらないかと呼びかけたんです。
鹿の尻のオフ会を開催したと。
オフ会なんて仲良しこよしの会じゃありませんよ。
あの雰囲気はまるで宗教ですね。
鹿の尻で涙を流した者たちが集まる集会。
またあの鹿を見て涙を流したい、そうすれば嫌なことを全て忘れることができる、そう信じた者たちの集まりなわけです。
時間が経つにつれて、鹿の尻と遭遇して涙を流したという非日常体験を忘れることができず、もう一度非日常を味わいたいという欲求を皆さんが持ってしまっていたのですね。
それでオフ会では何を?
無性に鹿の尻を見たい、という気持ちを集会に来た人全員が持っていました。
情報交換だけではないですよね?
先程も話した通り、皆鹿の尻をもう一度拝みたいと考えてました。
だから、どうすれば、どこに行けば鹿と遭遇できるのかを知ることが私たちのゴールでした。
まず私達が行ったのは、鹿の目撃情報を全員分集め、出没範囲を特定またはしぼりこむことでした。
しかし結果は、出没範囲は日本全国とわかり、どこらへんに行けば鹿と会えそうなのかはわかりませんでした。
しかし、あなたは鹿と会えたそうですね。
そうです。
どう会えたのかと聞かれたら答えるのが難しいのですが、願いが通じたと言えば良いのでしょうか。
これも新宿の自宅へ帰っている途中にたまたま目の前に現れたのです。
すぐに私は仲間たちを集めました。
みんなで鹿を目の前にして、同じ感動を味わいたかったからです。
近くにいた仲間たちは数分で駆けつけ、比較的遠くにいた仲間たちも20分ほどしたらやってきました。
わざわざ新幹線に乗って来た仲間もいましたよ。
それほど熱狂的になっていたのですね。
そりゃそうですよ。
2ヶ月、3ヶ月くらいは待ちましたからね。
あなたも愛する異性がいたら3ヶ月も会えないだなんて苦しいでしょ?
しかも私達の場合は、連絡すら取らないのです。
気が狂ってしまいますよ。
私はその鹿に出会ったことがないのでその感覚が理解できませんが、今は多様性の時代。
いろんな感性の方がいることは理解しています。
ありがとうございます。
ただ、私は単なる盲信をしていたわけではないんです。
実は声が聞こえたのです。
声?
どのような声ですか?
他の誰も聞こえなかったと言うのですが、私にはハッキリと聞こえたのです。
「オヌシヨ。ワガ、ハジメテノ、チキュウノトモヨ。ワレラトトモニ、チキュウヲ、チェンジスルノダ」
いいねして作者を応援しましょう!
続きはまだありません
アプリなら
お気に入り作品の更新をPush通知で受け取ることができます!
ファンタジーの小説
もっと見る- ファンタジー
俺クロの世界に転生したら異能力者でしかも選抜試験を受けることになったんすけど!?!?
遅刻寸前の時に捨て猫を助け、トラックに 押し潰されてお亡くなりになった私……。 ところが憐れになった神様が転生してくださる事に!? 転生先は…俺クロ⁉ 転生直後に変質者に追われていた時、助けてくれたミレイさんについていったら行き当たりばったりで同居することになっちゃったり、動物霊にな憑かれやすかったり…。 これ取り憑かれてませんか!?(猫に)
favorite 274grade 57update 15分前 - ファンタジー
天才少女の妹
七賢人〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレットは無詠唱魔術を人間で唯一使える天才だ そんな天才少女には実は妹がいました サイレント・ウィッチの二次創作小説です
favorite 0grade 0update 18分前 - ファンタジー
不思議な世界からからぴちへの挑戦!?
ある日、頼んでいない本が届く。 困惑しながらも、からぴちメンバーがその本を開く、と謎世界に入ってしまう そして落ちた先は「ワンダーランド」!? 落ちてしまったからぴちメンバーは現実世界に戻ることができるのか、、、
favorite 6grade 3update 18分前
コンテスト受賞作品
もっと見るショートドラマ&アニメーション原案募集コンテスト
公式TikTokの注目動画
もっと見るチャレンジ小説
もっと見る- 恋愛
僕にキミへの愛を語らせるな
後ろの席の男子が泣いていた…。 彼は学校一のモテ男と噂される「黒須 洸」 彼の涙の意味が気になり出してしまった私…。 そして、私は、ある事件をきっかけに彼の正体を知ることになる。 交わらなかったはずの 私と彼の物語が動きだす。 【後編↓↓】 https://novel.prcm.jp/novel/PL4yQDzVvwA2p4Gi5zBz 2020.12.27 キャプチャタイトルを変更しました 2021.2.5 タイトル一新|ω・`) 【イラスト】 立ち絵素材 わたおきば 様 表紙 ミカスケのお絵描き 様 Pixabay 様
- ホラー
魔法少女スターターセット 𝑠𝑡𝑎𝑟𝑡
「魔法少女スターターセットをあなただけに無料プレゼント!!」 とある日、こんなメールが届いた。 魔法少女?スターターセット??そんなものこの世に存在するわけがない。だって、魔法なんて誰にも使えないんだから。 ただのいたずらだと思っていたら、次の日の朝、スターターセットが届いていて…!? ※あまり、派手にはやらかしません(?)何かあれば💬まで。 表紙の箱が潰れているのは気にしないで下さい((
- ファンタジー
ドメインうぉーず!〜仮想世界を舞台にしたデスゲームで妹を溺愛している少女が妹を救うために元ゲームマスターの裏切り者の人工超知能と手を組んでゲームぶっ壊します〜
2050年、全てがデジタルで一元管理される時代。 妹の九三が原因不明の自殺未遂で昏睡状態に陥り、姉・有海空の世界は崩壊した。 そんな中、CUBEと呼ばれる次の人類の故郷となる仮想世界での権力争いが激化。 そこは、土地や通貨を奪い合うバトルロワイヤルの場であり、 選ばれし者たちが欲望のために汎用人工知能MEを駆使してしのぎを削る世界だった。 ある日、妹の見舞いのために病院を訪れた空は異様な光景に遭遇する。 周りは人型の怪物によって拘束された人々で溢れ、自身も動けなくなってしまう。 そこで聞こえてきたのは、かつて人類を破滅に追い込んだAIの声。 「妹の体をくれたら、救ってもいい。」この言葉をきっかけに、 空は妹を救うため、そして元の平穏な日常を取り戻すため、 世界の運命を賭けたデスゲームへと足を踏み入れる。 使用画像 七三ゆきのアトリエ https://nanamiyuki.com/ novelai https://novelai.net/
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!