第48話

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2023/04/27 18:49
桜の花びらが風に舞った。
スーツ姿の彼にそっと寄り添う。
……綺麗だね。
俺は別に。
……よくわかんないかも。
……ふふ。そっか。
雪の顔を覗き見ると、
雪はこちらをちらりと見て、ふっと笑う。
なに
べつに?
……なんだよ?
なんでもないったら。
私もつられてくすっと笑う。
雪の手がふわっと私の手を包む。
……ほら、早く帰るよ。
これが、今の私たちの日常。
特別なことは何も無い。

雪はもう音楽を作っていないし、
過度に人に優しくすることもなくなった。

けど、私は彼が変わったとは思わない。
相変わらず察しがいいし、
必要な時に必要な手を貸してくれる。

私は、今でも雪が大好きだ。
そんなに急がなくてもいいのに。
この後雨の予報なんだけど。
え。そうなの?
……はぁ。天気予報みてないの?
傘持ってきてないや……。
だから言ったんだよ。早く帰ろうって。
私もあまり変わってはいないけれど、
少しは正直になれるようになった。

怖いことはたくさんある。
生きるのは難しいけれど、それでも
この人の隣を歩きたいと思えるから、私は大丈夫。

風が吹いた。
2人の背を見守る桜の木が、ゆっくりと揺れている。

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