そう言うだけで精一杯だった。
頭の中が真っ白で何も考えられない。
(蒼母)そうよね…もう1度言うわね。蒼がさっき事故にあって死んだわ…
(蒼母)私も嘘だと思いたいけれど、これは現実なの。
蒼のお母さんは言葉につかえながらも話してくれた。でもまだ頭がぼーとして何も考えられない。
(蒼母)今は何も考えられないと思う。でも整理がついたら家まで来てくれるかしら?
私は返事をすることができなかった。
でも蒼のお母さんはそれを察したのだろう。
電話は切れた。
その夜、私は堂々めぐりの考えを繰り返した。
蒼はもういないと考えても受け入れられない。
せめて気持ちを話しておけば…。
そんなことばかりを考えてしまう。
行きついた答えは、過去に戻りたい、だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!