私はこの日、始めてプールをうらんだ。
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事の発端は(お察しの通り)萌。
あの人が『プールに落ちたものとって~(ほぼ脅し)』と言ったのでとったらまあ予想通り突き落とされた。
そこまでは、まだいい。
そのあとなんと、プールの鍵を閉められた。
さらにプールからでるための梯子もとられた。
生憎、濡れた制服と可愛らしい(小さい)身長ではプールサイドに上がることができない。
はっ!なにいってんの私?!
ころんの事なんかどうでも良いの!今は自分の心配をしなさい!
…とか言いつつも、頭のなかにはあの水色頭が浮かんでくる。
___バカ。嫌いなら絡まないでよ。
私がこぼれ落ちたに涙をごしごしと拭いたとき。
また来た。
そういわれてゆっくりとじゃぶじゃぶころんのほうに近寄った。
するといきなり腕をぐいっと捕まれる。
そりゃこんだけ長くプールにいるんだから当然だ。
あと冷たいを強調して二回言うな!
降り離すこともできたはずなのに。
私はまたも、ころんの腕をつかんでしまった。
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<ころんside>
部活帰りに何気なくプールに目をやったら、
同居しているやつが溺れていて、
長時間プールにいて体がとても冷たく心配になり、
体育着を貸している。
と言ったら聞こえはよくなるのだろうか?
実際のところ、僕はばれないように『嫌い』と言ったら好きなやつに聞かれて、
探したところ偶然見つけて自分の体操着を貸している、という展開だ。
しかも…
たまにこういう声をかけてくる。
…ダメだ、少し想像して楽しんでいる自分がいる。
プールによくあるあのボイラー室みたいなところから着替えてでてきた南は、
僕の体操着をきてでてきた。
___しかもブカブカの。
水浸しの制服で変えるよりはましだろ。
とか思いつつも直視できない。
ダメだ。気持ち悪い想像しかでてこない。
南は帰ろうとする僕のことを止めた。
南は自分が無視されたことよりも、
僕が嫌いといったことよりも、
自分が助かったことに疑問を覚えていた。
そういった南の瞳は悲しげだった。
女の子だ。
強そうに見えるけど、普通の高校二年生だ。
いじめられて悩む、自分と同じ人間。
それなのに、僕は…
口からはかわいくない言葉が飛び出す。
支離滅裂で、ちゃんとした理論も話せていない。
南が、話した。
そういって南はニコッと笑った。
南は、優しい。
だから、僕がどんなにひどいことをしても笑って許してくれる。
相手がどんなにクズでも、どんなに酷いことを自分にしても。
だから僕は、南のことを好きになったんだと思う。
でも、だから南は___
そのいたずらっ子のような笑みに、僕の胸は張り裂けそうになった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。