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目が覚めると、私がいたのは、あの暗闇ではなかった。白い天井があった。辺りを見渡してみると、荷物を背負う、男の人の後ろ姿が目に入った。
その瞬間、優斗が抱きついてきた。
久しぶりに聞いた優斗の声に私は涙を流しながら言った。
その後、精密検査をして、結果が出るまではとりあえずまだ入院することになった。
私は小さな小包を指さして言った。
優斗が隠そうとした小包をさっと奪い、中身を見ると、そこには、綺麗な飴細工が入っていた。
あるわけないじゃん。
そう思いながら、私は飴を眺めてから、口に入れた。
その時、涙が溢れ出てきた。
優斗は、そっと、私の背中をさすってくれた。
そう、定期的に聞こえてきた声。
確証は何も無いけれど、朧気にそう感じていた。優しくて、温かくて、聞いていて、嬉しい声。
いつだったか、あなたのお母さんは、高校生になった時に亡くなったと聞いた。
一瞬、まだ高校生だということがよぎりそうだったが、もう、3年も経っていることを思い出した。そして、私はこう告げた。
私も、優斗のずっと大切な人でありたい。
きっと、あの暗闇にいた頃がなければ、すぐにはそんな結論にはならなかっただろう。
これも1種の運命なのかもしれない。
お母さん、ありがとう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!