第11話

ただいま。
60
2018/02/06 15:10


目が覚めると、私がいたのは、あの暗闇ではなかった。白い天井があった。辺りを見渡してみると、荷物を背負う、男の人の後ろ姿が目に入った。
あなた

ゆう、と…

その瞬間、優斗が抱きついてきた。
優斗
遅いんだよ、馬鹿野郎。
久しぶりに聞いた優斗の声に私は涙を流しながら言った。
あなた

ただいま。

優斗
おかえり。
その後、精密検査をして、結果が出るまではとりあえずまだ入院することになった。
あなた

ねぇ、それ、何?

私は小さな小包を指さして言った。
優斗
いや、これは、その…
あっ!
優斗が隠そうとした小包をさっと奪い、中身を見ると、そこには、綺麗な飴細工が入っていた。
あなた

わぁ…
これ、私に?

優斗
ったく…
そーだよ、なんか文句あんのか。
あるわけないじゃん。
そう思いながら、私は飴を眺めてから、口に入れた。
あなた

美味しい…。

その時、涙が溢れ出てきた。
優斗は、そっと、私の背中をさすってくれた。
あなた

ずっと、暗闇の中にいたの。

優斗
暗闇?
あなた

そう。真っ暗で、誰もいなかった。ひとりぼっちだった。

優斗
そっか。
あなた

でもね、声が聞こえてたの。

優斗
声?誰の?
あなた

優斗の、声。

そう、定期的に聞こえてきた声。
確証は何も無いけれど、朧気にそう感じていた。優しくて、温かくて、聞いていて、嬉しい声。
あなた

声は聞こえても、暗闇からは出られなかった。
でも、助けてくれたの。お母さんが。

優斗
あなたのお母さんが…
いつだったか、あなたのお母さんは、高校生になった時に亡くなったと聞いた。
あなた

お母さんが、言ってくれたの。
「自分を信じて。あなたの大切な人を信じて。そして、笑って。」って。

暗闇にいた時、お母さんに伝わったらって思って、優斗や、雪見のことを話したの。それで、久しぶりに笑ったら、お母さんの声が聞こえた。

優斗
なぁ、あなた。
あなた

ん?

優斗
俺じゃ、ダメか…?
あなたのずっと、大切な人でいたいんだ。
あなた

それって…

優斗
俺と、結婚してほしい。
一瞬、まだ高校生だということがよぎりそうだったが、もう、3年も経っていることを思い出した。そして、私はこう告げた。
あなた

喜んで。

私も、優斗のずっと大切な人でありたい。
きっと、あの暗闇にいた頃がなければ、すぐにはそんな結論にはならなかっただろう。
これも1種の運命なのかもしれない。

お母さん、ありがとう。

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