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第1話

出会い
12
2020/11/21 16:42
今日は雨が降ってくれてよかった。濡れて帰りたい日だった。



遡ること4年前・・・
あれは美しい音がする雨の日だった。僕は高校受験を1ヶ月後に控えていたため、図書館に毎週入り浸っていた。その帰り急に大粒の雨が降ってきた。僕は天気予報を見ずに家を出たから傘を持っていなかった。急いで近くの喫茶店に駆け込み、雨宿りさせてもらうことにした。「Flowers that bloom forever」という可愛らしい小さな喫茶店だった。男1人で入るのは抵抗があったが勇気を振り絞り1歩を踏み出した。
カランコローン
店員さん
店員さん
こんにちは、いらっしゃいませ。おひとり様でよろしいでしょうか
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
はい。
店員さん
店員さん
こちらへどうぞ
優しそうな30代後半の女性が微笑みながら席に案内してくれた。僕はコーヒーとフレンチトーストを注文し、音楽を聞いて待った。外の雨は強くなる一方だった。実は僕は去年1年間、病気を患い学校に通うことが出来なかったのだ。だから、僕の同級生はもうみんな受験を乗り越え楽しい高校生活を送っていた。今、僕は受験よりも乗り越えた後の方が心配だった。歳が違うせいで距離をとられたり、いじめられたりするんじゃないかって不安でたまらなかった。この先どうしたらいいのだろう?悩むことしか出来なかった。
店員さん
店員さん
お待たせしました!コーヒーとフレンチトーストです。
急に注文した品が運ばれてきた。フレンチトーストの甘い匂いとコーヒーの苦味のある匂いがなんとも言えないハーモニーを作り出している。
店員さん
店員さん
ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
はい、大丈夫です。
店員さん
店員さん
失礼致します
僕は早速フレンチトーストと会話を始めた。お前はどうしたら1番美味しく食べれるんだ?チョコソースをかけた方がいいか?いちごソースなのか?いや、キャラメルソースか?僕は甘党だからこういうスイーツを食べる時のこだわりが人二倍強い。せっかく食べるのだから1番美味しい状態で食べたい。そうしないと食べ物にも失礼だ。で、フレンチトースト。君はどの食べ方が1番美味しいと思う?いちごか?チョコ?キャラメル?僕はフレンチトーストが「いちごソースだよ。生クリームの上にかけてチョコフレークを足すと最高なんだ。」と言っている声が聞こえた。みんな、実際には聞こえないから結局自分で決めてるんだろ?と言ってくるがそれは違う。僕には聞こえるんだ。食べ物の声がしっかりと。毎回声も喋り方も雰囲気も全く違うんだ。だからきっと食べ物は喋っているんだ。よし、このフレンチトーストが言うように今日はいちごソースでチョコフレークをかけよう。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
すいません。いちごソースとチョコフレークってありますか?
偶然通りかかった、さっき席に案内してくれた店員さんに尋ねた。
店員さん
店員さん
はい、ございます。チョコフレークは別料金で100円になりますがよろしいでしょうか?
美味しく食べるために100円多く払うなんてどうってことない。むしろ100円ですんで感謝だ。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
はい、大丈夫です。
店員さん
店員さん
かしこまりました。少々お待ち下さい。
僕は会釈をして、店員が行ったことを確認し、コーヒーのカップに手を伸ばした。なぜ店員が行ったことを確認したかって?そりゃ他人に自分が何かを飲んでいるところを見られたくないからに決まってるだろう。あ、店員が戻ってきた。僕はコーヒーカップを置いた。
店員さん
店員さん
お待たせしました。チョコフレークといちごソースです。以上でよろしいでしょうか?
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
はい。ありがとうございます。
店員さん
店員さん
失礼致します。
さぁフレンチトースト。君を美味しく食べる準備が整ったよ。ソースを全体にかける。そしてチョコフレークをサラサラとクリーム全体にかかるようにする。うむ、完璧だ!
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
いただきます。
僕は一口サイズにフレンチトーストを切った。まずは匂いだ。ゆっくりと鼻から吸う。なんといういい香りだ。砂糖の甘い匂いの後にいちごソースの甘酸っぱい香り。匂いだけでお腹が満たされそうだ。さぁ食べよう。パクっ。ん!甘い砂糖の後に卵のまろやかさがありまるで新食感のプリンのようだ。いちごソースで甘酸っぱくなり甘すぎないでとても美味しい!これだけでも上手いのにクリームと一緒に食べてしまったら、僕はまたここに来てしまうかもしれないぞ。もうそうなってもいい、次に僕はクリームとチョコフレーク、いちごソースのかかったフレンチトーストを食べた。うますぎる。生クリームが甘くなくちょうど良い。チョコフレークがあることによってカリカリとした食感が生まれ、食べてて飽きない!完璧すぎる。ここのフレンチトーストは完璧だ。僕はあっという間にフレンチトーストを平らげた。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
ご馳走様でした。
すごく美味しかった。また来よう。今度は柑橘系のソースで食べてみたい。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
雨がやんでる。
時計を見ると、もう入店してから1時間半が経過していた。そろそろ出なくては。僕は荷物をまとめレジに向かった。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
お会計お願いします。
店員さん
店員さん
かしこまりました。
ピッピッピッ
店員さん
店員さん
お会計970円になります。
僕はお財布を開き小銭を取り出した。ピッタリ970円あったのでなんだか嬉しくなった。
店員さん
店員さん
ちょうどお預かりします。ありがとうございました。
お財布を鞄の中にしまい、お店を出ようとしたその時1人の女の子がお店に入ってきた。
咲永花
咲永花
お母さん、ただいまー
店員さん
店員さん
おかえり、咲永花
咲永花と呼ばれた女の子はニコッと笑いお店の雰囲気を明るくさせた。まるで花みたいだ。そこにいるだけで周りを明るくし、癒す。そんな力が不思議な子だった。
咲永花
咲永花
お兄さん、こんにちは!うちのパンケーキ食べました?
僕に話しかけてきたのか?こちらを見ているのだから多分そうか。普段なら「はい」とだけ答えてすっといなくなれけれどなんだか分からないがしっかり答えてみようという気持ちになった。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
はい、とても美味しかったです。あのふわふわ感そして生クリームが甘くなく上品な味わいでとても良かったです。
咲永花
咲永花
おおー!お兄さんナイスだね!あれにはね。チョコフレークといちごソースが1番合うんだよ〜。
お、この子わかる子なのか?俺がフレンチトーストに聞いたものと一緒だなんてなかなかないぞ。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
僕は今日それで食べましたよ。
咲永花
咲永花
お兄さん、なんでわかったの?その組み合わせを何も知らずに注文したのお兄さんだけだよ?他の人には私が教えたんだ♪
彼女は自慢げに腕を組んで言った。まるで自分が作ったかのように。
店員さん
店員さん
こーら、咲永花。お客さんには敬語を使いなさい。
咲永花
咲永花
あ!ごめんごめん。
びっくりしてついね(笑)
店員さん
店員さん
すみません。この子、すぐ敬語を使うの忘れちゃうんですよ。ちゃんとあとで言い聞かせますので。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
いえ、大丈夫ですよ。元気があることはいいことですし、多分同い歳ぐらいなので全然敬語じゃなくても大丈夫です。
咲永花
咲永花
お兄さん、優しいー!
いつもならこんなに沢山話さないのに、今日は僕、どうしたんだろう?多分この子がいるからだな。さっきからどんどん力に吸い込まれてる気がする。
咲永花
咲永花
お兄さん、いくつ?
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
今年で16
咲永花
咲永花
タメじゃん!じゃあ、お兄さんは高校生か!
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
お兄さんは?
咲永花
咲永花
あ、私まだ高校生じゃないんだよねー。去年病気しちゃってさ。受験できてないの。
なんて偶然なんだろう。僕と同じ経験をした子がいるなんて。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
いや、僕もまだ高校生に慣れてないんだ。君と同じで去年、病気になってしまって受験できていないんだ。
咲永花
咲永花
えー!じゃあまだ受験生?同じなの?
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
うん。そうなるね。
咲永花
咲永花
やったー!同じ人いてよかったー。私、不安だったんだよね。入学してもみんなと歳が違うからハブられるんじゃないかって。でも安心したー。私だけじゃないんだもんね!
僕と同じ悩みを抱えていたなんて。みんな考えることは同じなんだな。この子は価値観が合う気がする。
咲永花
咲永花
お兄さん、名前は?
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
早瀬蒼斗
咲永花
咲永花
蒼斗ってかっこいい名前だね!
私は三好咲永花!
LAME交換しようよ!受験生同士お話しよー
自分でもわかる。今、僕の顔は真っ赤だろう。自分の名前をかっこいいなんて言われるのなんて初めてだったからだ。
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
え、あ、え、いいけど。受験生だしあんまり連絡とれないけどそれでいいなら。
咲永花
咲永花
いいよー!やったー!
いつもなら、いつもなら絶対にいれない。身内以外のLAMEなんて絶対にいれないのに今日はなんでだろう?勉強しすぎて熱でも出たのか?今日は調子が悪いな。
咲永花
咲永花
よろしくー!
僕(蒼斗)
僕(蒼斗)
よろしく
続く…

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