亡くなる直前後の表現はありませんが、途中で亡くなります
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ジェルside
コンコンコンコン
今日も独特なノックの音がした
こんなノックをするのは彼だけ
彼はいつも、ノックの回数が一回だけ多い
俺は北海道に引っ越した
同じく引っ越したのが莉犬
お互い引っ越したばかりで慣れない土地
そこで支え合ってきた
彼は雪国で遠目でもわかる
真っ赤な髪に犬耳と尻尾
それは彼いわく俺も同じらしく
らしい
そんな彼もいなくなってしまった
雪の除雪作業の時にドジったのだろう
彼の隣人はそう言っていた
彼はよくドジった
不注意だったのだろうか
隣人は詳細は話してくれなかった
俺はその後、雪に慣れるまで隣人と一緒に行動した
その人は
そういって面倒を見てくれた
莉犬が亡くなって1週間
いつもの日常が非日常になった日
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夜だった
いつもよりテレビが面白くて夜遅くまで観てしまった時だった
コンコンコンコン
音が聞こえた
窓ガラスを叩かれた音
真冬の北海道
人の家の窓まで来てノックする人なんていない
確認しても誰もいない
あんなノックをするのは人生で1人しかいなかった
そして彼も、もういない
俺は全てを察した
彼が家に来たんだと
帰って来たんだと
そう思って窓に居るであろう彼を歓迎して迎え入れた
普通なら怖いだろう
でも俺は怖くなかった
むしろ嬉しかった
まだ側にいたんだと
安心できたから
それから何ヵ月かノックが続いて
春になった頃
ノックの音は一切ならなくなった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!