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第1話

事の始まり
383
2020/11/10 14:24
 僕たちはいつも一緒だった。
 
 もちろん、今の話ではない。

 昔々の話だ。

 今は立場が違うってわかってるし

 もう普通に話すことなんて

 出来ないと思ってた。

 そう、今の今まで

 コイツがここに来るまでは
秀太
な、文哉、頼むよ
文哉
いや、なんで僕なんだよ
秀太
文哉しか頼める人がいないんだよ
文哉
だから、理由は?
秀太
それはここじゃあ言えないけど
文哉
理由なく、女装してくれって言われて、するわけないでしょ?
秀太
わかった、ちょっと人のいないとこで
 コイツは幼馴染みの秀太。僕と違って優秀で帝直属の責務を負っている。
 僕は武官になりたかったけど、身長が小さいからとかふざけた理由で文官にされた落ちこぼれだ。
 僕たちの母親は乳母をしていたため、僕たちは宮中で育った。
 あの頃はなにもわかってなかったし、ただ毎日が楽しかったんだ。
秀太
あのさ、すごい言いにくいんだけど
何となくいやな予感はしてた
秀太
弟帝かつくんに毒が盛られた
 瞬間、僕は秀太の胸倉を掴んでいた。
文哉
何でだよ!お前がついててなんで!
秀太
まったまった、わかってるから。怒るって思ってたよ。
 僕ははっとして慌てて手を離した。幼馴染みとは言え目上の立場の人間だ。こんなところを誰かに見られたら僕の首は飛ぶ。それをわかってて秀太は僕を人のいないところに連れてきたのだ。
秀太
ごめん、文哉の言う通りだ。気づけなかった俺に落ち度がある。
文哉
で、弟帝かつくんは?
秀太
すぐに吐き出して大事には至らなかった。若干遅効性だったせいで毒味に症状が出たときには既に口にしてて
文哉
でも、帝との関係は良好だよね?
秀太
もちろん、権力争いなんて二人はしようとしていないよ
文哉
じゃあ、なんで
秀太
わかんないんだよ、それが
文哉
それでどうして女装に?
秀太
後宮に入り込んで調べてほしいんだよ
文哉
なんで、秀太が行けば良いじゃん
秀太
俺は顔が割れてるし、女装したとこで女官に見られるのは難しいだろ?
文哉
それ、僕の背が低いって言ってない?
秀太
んー、言ってない言ってない
文哉
目が泳いでる!
秀太
だからお前しかいないんだよ。文哉も信頼できる人間なんて他の誰もいない。弟帝かつくんが狙われたってことは、帝もいつ狙われるか…
文哉
いやいや、絶対ばれるよ?ばれる自信はあるよ
秀太
大丈夫!絶対美人にするから!
文哉
いや、大丈夫の意味がわかんないから
秀太
お前の職場には俺からなんとか言っとくから、ね、頼むよ
文哉
わかったよ。まけたまけた。女装すれば良いんでしょ?
秀太
ホントに!文哉ありがとうー
 秀太が人懐っこく抱きついてくる。さっき胸倉掴んだ相手だぞ? まぁ、これが秀太なんだけどね。
 つい安請け合いしてしまったけど、でも居ても立ってもいられなかったことは確かなんだ。


 誰かが命を狙っている
勝就
でもさ、なんかあってもきっと文哉が守ってくれるやん?
 懐かしい声が何となく聞こえてきた気がした。僕は武官になれなかった落ちこぼれだけど、もしかしたら約束を守れるかもしれない。
 
秀太
あ、文哉やっと笑った
文哉
笑ってないよ
秀太
いやいや笑ってるって
文哉
そんなことないから
 大変なことが待ち受けてても、またこいつらとなにかが出来る。それが嬉しくってワクワクしてたんだ。

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