第3話

後宮入り
257
2020/11/15 05:30
 朝は時間通りに起きようと思っていたのに、昨日あんなことがあったからなんだか眠れなくて、
文哉
寝坊した
秀太
遅いっ
文哉
ごめん
秀太
まぁ、何となく想像してたけど?
文哉
ごめん
秀太
会ってたんでしょ?
文哉
ごめん
秀太
なにも聞く気ないでしょ
文哉
ごめん
秀太
もー、じゃぁちゃっちゃと着替えるよ
 多分、帝付きの女官と思われるおばさま達が待機していた。馬車のなかで服を着せ替えられ、化粧をされ…
秀太
いや、めっちゃかわいいやん
文哉
いや、ほめられたくないんだけど
秀太
うんうん、やっぱり俺の見込んだ通り
文哉
なんだかなぁ
 そうして僕の変装は成功し、後宮入りとなった。一応所作的なものは母を見てたしなんとかなるだろうと思っていたが
秀太
で、名前どうする?
文哉
確かに
秀太
じゃ、ふみちゃんで
文哉
それが一番無難だよね
秀太
じゃ、もうすぐ着くから。一応、生まれつき声の病気で男っぽい声してるって設定らしいよ
文哉
その設定も皇后様が考えたの?
秀太
そうそう、ノリノリなんだよね
 それほどまでして僕を呼びたい理由はなんだろう?始まりは弟帝かつくんの毒だったとしても、自分の近くに男を引き入れる意味がわからない。まぁ、秀太から男の機能を止める薬だかをもらって飲むわけなんだけど
秀太
めちゃくちゃ不味いから
文哉
笑って言うなよ
秀太
じゃ、ふみちゃん、準備はいいですか?
文哉
行かなきゃダメだよね
秀太
もちろん?
 僕はでっかくため息を着いて、馬車を降りた。そこには、女の園である後宮の入り口があった。女の人が二人待っていた。
花蓮
お待ちしておりました。ふみさん。
文哉
花蓮さん…ちょっと秀太、聞いてないんだけど
秀太
言ってないんだけど?
 花蓮さんは宮勤めの親がいる子どもでよく遊んでいたときの憧れのお姉さんだ。いつも優しくて後宮に女官として入るって言うときはみんなして泣いたような…
花蓮
ふみさん、気持ちはわかりますが秀太さまは今は目上の方です。言葉を慎むように。
文哉
はい…
 秀太が俺に向かってにやにやとウインクした。解せない。まぁ、仕方ないんだけど。
花蓮
こちらは拓美さんです。
拓美
よろしくお願いします、ふみさん
文哉
よろしくお願いします
花蓮
一応、皇后付きの女官はまだいるのですが作戦を知っているのは私たちです
文哉
あー、拓美さんもご存じなんですね
拓美
はい…
 拓美さんが顔を赤らめた気がした。あ、そうか、後宮勤めだからあまり男に耐性がないのか。
花蓮
時間も推しているので、秀太さまはここで。歩きながら説明しますね。
秀太
花蓮さん、ふみちゃんをよろしくお願いします
花蓮
もちろん、私がしっかりと女官に育て上げます
 冗談なのか冗談じゃないのかわからない二人の会話。もう僕もなりきるしかない。
文哉
それでは秀太さまごきげんよう
秀太
ういうい、ふみちゃん、頑張って。
 秀太が僕の頭を2回軽く叩いて、耳元で
秀太
任せたよ
 と言って去っていった。暇そうに見えたけど実は忙しいのに僕を心配してくれていたのかもしれない。

 皇后の御所に行くまで、花蓮さんから軽く後宮の説明を聞いていた。
花蓮
作戦を知っていない皇后付きの女官もおります。こちらもなるべく配慮しますが気をつけてください。
文哉
はい
どう気を付ければいいかわかんないけど…
花蓮
皇后付きの女官は私たちの他にもおりますので、着きましたら紹介しますね
拓美
ところで花蓮様、ふみさまとはどういったお知り合いなのですか?お会いしたら教えてくれると話していたじゃないですか
花蓮
古い友人ですよ。昔はとってもかわいかったのですよ。弟帝様とは双子みたいにずっと一緒だったんです
拓美
弟帝様と?背格好は似てないように思いますけど
思いっきり身長をいじられている気がする。とはいえ、この子だって僕とたいした変わらないのに…女の子とたいした変わらないのか。自分で考えておいてショックを受けた。
文哉
どうせ、ちびですよー
花蓮
そんなに悲観なさらないで、今回の件はふみさんがいらっしゃったから出来るようなものです
喜んでいいんだか悪いんだか複雑な気持ちになる。
拓美
でも、もっと怖い方かと思ってました
文哉
えっと、僕がですか?
花蓮
ふみさん、僕ではダメですよ
文哉
あー、はい。私がですか?
拓美
可愛らしい方で安心しました
花蓮
それはちゃんと言ってましたよ。可愛らしい方ですよって
 照れる。なんなんだこの人たちは…いや、女の園って言うのはこういうことなのか?
花蓮
あ、着きました。ここが私たちの勤め先になります。
ものすごい華美と言うわけではないが、しっかりとした佇まいの建物だった。
花蓮
まず、皇后様にお会いになりますね?
文哉
お願いします
皇后の宮廷似はいると4人の女官が睨んできた。やっぱり余所者が入るのは面白くないか
花蓮
こちらは新しく入るふみさんよ。みんななかよくしてね。こちら、つるさん、きまさん、すかさん、しょせさんよ。
文哉
よろしくお願いします
瑠姫
あー、ほんとに来てくれたー
 テンションの高い声が奥から聞こえてきた。これも実は懐かしい声で、
瑠姫
待ってたよー、ふみちゃん
文哉
お久しぶりでした、皇后様。ご機嫌麗しゅう…
 皇后はすごい勢いで抱きついてきた。今、女装してるけど僕男なんだけど…
瑠姫
いやー、会いたかったんだー、うれしー
いや、そういってる横で花蓮さんがすごい殺意出してるんだけど
花蓮
皇后様、再会を喜ばれるのはよろしいですが、ちょっと…
瑠姫
あら、花蓮もハグしてほしいの?
花蓮
…違います
瑠姫
大切な話がありますのでおふみさん、奥へ。皆さんはいつも通りお願いしますね
そういって奥の部屋に通された。僕と皇后様と花蓮さん。他に誰もいないことを確認すると
瑠姫
文哉、来てくれてありがとう
文哉
いきなりのハグはビックリしますから。僕の首飛びますよ
瑠姫
あのお方はそんなことしませんから大丈夫です
花蓮
でも、少しはしゃぎすぎですよ
瑠姫
こうでもしないと他の女官ちゃん達がふみちゃん苛めしそうじゃない
 逆効果かもしれないけど、と思ったけどとりあえず飲み込んだ。
 皇后様こと瑠姫様はいわゆる許嫁と言うもので小さい頃からよく現帝に会いに来られていた。前帝は全ての配下に優しく、家族のような宮廷だったことを覚えている。
 でも、なんか武官になれなかった頃から様子がおかしくなっていたような…、あれ、なんでだろう?
瑠姫
ごめんなさいね、文哉。こうでもしないと貴方をあそこから連れ出すことができなくって。申し訳なかったと思うの
文哉
なんの話ですか?
瑠姫
前帝様の体調が怪しくなってきた頃、次の帝を確定させるために私たちは婚礼を挙げました。覚えてますよね?
文哉
もちろん
瑠姫
その頃から、私たちの意図しないところで勝就様の力を弱めようとする家臣たちが現れました
文哉
えっ?
 昨夜の言葉が脳裏によぎる。
勝就
だったら最初ハナっから、俺から引き離さんでほしかったわ
 僕がそばにいるのが邪魔だったから、武官になれなかったってこと?
瑠姫
その頃から、恐らくずっと良からぬことが続いていたと思います。まぁ、警告のような脅しのようなものがほとんどだったようですが
文哉
待ってください、じゃあなんで僕が女官の位置でここに連れてこられたのですか?
瑠姫
フフ、そんなの決まってるじゃない
花蓮
近いうちに後宮から弟帝様の妃を選ぶ話が上がっています。
瑠姫
お嫁さんになっちゃいましょう
 聞いてない、全く聞いてない。
文哉
いや、僕男ですよ?
瑠姫
だって、このままじゃ妃になった相手に狙われる可能性もあるじゃない。もう完全安牌なうえ、子どもを作ったり権力を手に入れるようなことはしたくないって言う勝就様のご意志に添える相手と言えばふみさんしか思い付かなかったのよ
文哉
いやいやいや、なんかおかしい
瑠姫
いいのいいの、形だけだから。あとはヤスくんがなんとかしてくれるから
文哉
僕、女装はしても男としての人生捨てた訳じゃないんですけど?
花蓮
お好きな方が出来ましたら女官として着いていただければよいと思います
文哉
いや、めちゃくちゃ…
瑠姫
あくまでこの状況と黒幕が見つかるまででも構いません。何となく把握はしているのですが、どうしても黒幕がつかめなくって
文哉
じゃあ毒を盛った犯人も?
瑠姫
まぁ、予想はできています。ただきっと本人はそのような毒だったと知らなかったでしょうに何者かに騙されたのだと思います。
文哉
その事はみんな知って…?
瑠姫
私と花蓮さんの想像ですので、確証持てるまではここだけの話です
花蓮
犯人であろうとなかろうと、疑われただけで立場が危うくなってしまいますので…それにご本人は騙されていただけだと思いますゆえ
 なんか話がめちゃくちゃでついていけない。僕の回りで何が起きているんだ?
文哉
じゃあ、作戦と言うのは?僕が女官として皇后様を守るんじゃなくて?
瑠姫
私は花蓮が守ってくれますもの。ライバルはたくさんいますからね。負けないように頑張りますよ
花蓮
もうここまで来てしまいましたからね、後戻りは難しいですよ?
 二人の笑顔が怖い。本当の作戦を教えてくれなかった秀太に軽い殺意を覚えながら、この作戦を許可した現帝にも怒りを覚えながら
文哉
…わかりました
 僕は従うしかなかった。もうなるようになれって思うしかなくて、でも、僕はまだ気づいていなかった。この弟帝の妃選びに渦巻く黒い陰謀を。

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