第8話

世界を変える舞
255
2020/11/21 05:51
 正直気付いてなかったけど、僕には舞の才能があるらしい。花蓮さんが教えてくれたものは一回で覚えれたし、昔見たものを思い出して舞うこともできた。だからぼくは舞で勝負することにした。
純姫
貴女がふみさまですね。今日はよろしくお願い致します
 初めてあったライバル。笑顔の可愛らしい人だった。こんな形で会わなければもっと仲良くなれたかもしれない。
景瑚
どこにどなたかわかりませんが、皇太弟様にふさわしいのはこの世で純姫様しかいらっしゃりませんからね!
 お付きの女官さんは敵意むき出しだ。まぁ、当たり前だけど。
文哉
お互いに頑張りましょうね
 僕にはこれを言うくらいが精一杯。僕が今やろうとしてることは誰かと争うんじゃなくて、かつくんにみせたいだけだったりする。

 かつくん、驚いてくれるかな?

 そう思うだけでワクワクした。先に披露した純姫様がどれだけ歌が上手くとも全然気にならなかった。

 庭園の真ん中に舞台が作られていた。周りには官僚たちはもちろん、妃になれる身分の上級妃たちやその女官もいた。舞台正面にはもちろん、帝と皇太弟様の席がある。
 正面に向かって一礼をする。皇后様は楽しそうに手を振っていた。

 集中、集中しろ。

 思い出してから何度も練習してきた。音がなくても音が流れるように。

 ここの全ての人間を魅了してやる。
文哉
いきます。
 僕はもう誰も踊れないであろう舞を舞う。それは亡くなったかつくんのお母さんの舞。子どもの頃の何度か見た舞。

 かつくんのお母さんは舞で先帝に見初められ側室になったと聞いた。儀式で舞うとき、かつくんはいつも嬉しそうに自慢していて、僕も大好きだった。

 身体を壊して早くに亡くなった時はその舞を誰にも継承せぬままだった。

 僕の記憶にはあの舞は鮮明に残っていたんだ。
勝就
…うそやん
康祐
俺らが思った以上だな、凄いわ
 舞を知ってるひとはもちろんざわつき、知らないひとも魅了されていた。

 どうだ、かつくん。
 君が求めてたのはこれだろ?
 ずっと見たかったのはこれだろ?

 舞が終わった瞬間、拍手の音とともに僕の視界が遮られた。
文哉
えっ?
勝就
ほんま、お前最高やわ
 かつくんに抱き締められていた。もう誰の目にみても勝敗はついていたと思う。
文哉
ちょっと待ってよ、いきなりなんだよ
勝就
なんなら舞の途中で抱き締めたいくらいやったわ
 かつくんの反応が自分の想像以上で嬉しく思った。僕らの姿をみて、周りが一瞬凍りついたように思ったが、帝が拍手を始めてくれ、それが伝染して暖かな拍手に包まれる。一応祝福してもらえるようだ。
康祐
皆の拍手で結果は決まったようだな。皇太弟の妃はふみとする。異論のあるものはいるか?
 拍手が僕たちを包んで祝福してくれていた。

 こうして、この茶番が終わった。



そして、
秀太
いや、ふみちゃんが悪いわ
文哉
なんでだよ
拓美
ふみさまの舞は素晴らしかったにですから文句は言わないでくださいますか
秀太
いや、凄かった。それは認めるけど、まさかアンチまで黙らせるとは
 そう、あんなに皇太弟に嫌がらせした連中が一気に黙った。舞と皇太弟のアクションに感動した後宮の女性たちはなにかの創作物ドラマのように僕たちを扱い、なぜかファンが増えた。
秀太
せっかく見え隠れしてた尻尾が見えなくなったもん。全く動きを見せない
文哉
私の舞はそんな力があったとは思いませんけど?
秀太
ふみちゃんはあの舞にどんな意味があるか覚えてる?
文哉
えっと、意味?
秀太
あの舞はさ、この国がみんな仲良く平和と安寧を願った舞なんだよ。意味わかって踊ってないところがふみちゃんだよな
 かつくんのお母さんがこの国を先帝を愛し守った舞だったようだ。
秀太
ってことで、しばらくはふみちゃんで
文哉
そうなるよね…
 最初はいやだったけど、毎晩かつくんが会いに来てくれて、話したりゲームしたりして、安心して眠るかつくんをみながら、あぁこんな生活も悪くないかなって思うようになっちゃったりして…
文哉
はぁ、こんなはずじゃなかったんだけどな
 国政はというとあのあと帝が役職の大幅更迭を行っていた。秀太はというと後宮の監査役も引き受けたらしくちょいちょい遊びに来るようになった。
秀太
いや、遊んでないから
 かつくんも皇太弟という肩書きとは別に役職につき帝を支える立場となったらしい。他の役職も、今までの人間を一新していた。若くて有能な人材ということだったが、その名前の並びには懐かしいものがあった。昔僕たちがいっしょに育ったあの場所にいた仲間たちだった。かつくんを支えてくれる場所にひかりや海人がいてくれるのは安心できたし、僕の籍だけある場所の一番上は翼が最年少で就任したときいた。
 僕はと言うと、皇后様の建物の中の部屋に自室をいただくことにした。新しい女官を入れなくても良いことが一番の理由だった。僕直属の女官としては拓美さんがついてくれていた。あんなに男性耐性がなかった彼女だが僕にも秀太にもすっかりなれてくれていた。
 あのあと、僕は奉納の舞を舞う舞子としても選ばれ、同じく選ばれた花蓮さんといっしょに儀式で舞を披露したりしていた。
 とにかく毎日が充実していた。

 窓際文官だった僕の憂鬱な日々はこうして幕を閉じたのだった。

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