第4話

帝との再会
247
2020/11/16 01:07
 とにかく花蓮さんの教育はスパルタだった。優しい笑顔を見せておきながら厳しい。とにかく完璧を目指す感じだ。僕も負けず嫌いなためついつい一生懸命やってしまった。
拓美
ふみさんはすごいですね。あの花蓮様の教育についていくなんて
文哉
誉められても嬉しくないです
拓美
私、ふみさんが本当に弟帝様のお妃様に選ばれるんじゃないかとワクワクしてきました
文哉
ワクワクしないでください
 目をキラキラさせた拓美さんが話してくれるけど、全然嬉しくない。休憩室で拓美さんのいれてくれたお茶を飲みながら、そういえば拓美さんってきれいだよなぁと思う。
文哉
拓美さんがお妃目指すのはいかがでしょう?
拓美
え?私がですか?
文哉
ぼ、私より全然向いてると思いますよ?
拓美
いえ、私はそのような立場になる人間ではありませんゆえ…皇后様に拾われた身ですから、一生を捧げる覚悟でおります
 なるほど、この子は案外頑固のようだ。フワッとしているようで芯が強いんだな。
 部屋の外から話し声が聞こえてくる
つる
やっぱり、納得できません。弟帝様のお妃は純姫様で決まっていたじゃないですか!それをどこの馬の骨かわからないような小娘を推薦するなんて
花蓮
つるさん、失礼ですよ。ふみさまは元々貴族の出ですから素養は十分なのですよ
 いつから貴族になったのか…
 横を見ると拓美さんが1本指立てて内緒のポーズをしながら耳を傾けていた。
つる
それに、ここから出すのでしたら花蓮様や拓美様出ていただいた方がよいと思うのです
花蓮
でも、お決めになったのは皇后様ですから
つる
だから花蓮様にそのお考えを正すように進言してほしいのです
花蓮
フフフ、つるさんはどうしてそんなに心配されているんですか?
つる
それは、その…
花蓮
理由はないのよね?ただぱっと出の子がいきなり推薦されるのが面白くないのでしょう?
つる
そう、なりますね
花蓮
私は、皇后様のお考えを尊重したいと思っています。そして、ふみさまにまた会って、この子ならば大丈夫と言う確信を持てましたよ?
 その瞬間、聞き耳を立てていた扉が開いた
花蓮
ね、ふみさん?
 廊下にその勢いで飛び出した僕は世界一怖い笑顔を見た気がした。
花蓮
ふみさん、先ほど教えた舞をここで踊ってみてくださいませんか?
文哉
え、えと…はい
 立ち上がり、ポンポンと裾を払う。集中、集中しろ。息を整え、先ほど習った舞の最初のポーズをとる。きっとここで失敗したらダメなやつだ。

 大丈夫、何度も見てきた舞だ。
拓美
すごい、きれい
 僕の舞にみんなが見とれている気がした。男だからって舞は習ってこなかったけど、子どもの頃からずっと見てきた。だからか、覚えるのも容易かった。
 踊り終えた僕に拍手してくれた。
拓美
すごい、すごいですふみさん!一日でこんなに習得できるなんて
花蓮
舞に関してはもう教えることはないレベルになってますよ
文哉
あ、ありがとうございます
花蓮
つるさん、いかがでしたか?
 つるさんは少しうつむきぎみで、少し震えていた。そんなに嫌われているのか…
つる
…素晴らしかったです!
 つるさんは目にいっぱい涙をためて僕の手を両手で掴んだ。
つる
感動しました!素晴らしかったです!
 僕は呆気にとられてしまった。いや、さっきまでめっちゃアンチだったじゃん。
文哉
…ありがとうございます
つる
絶対妃になりましょう!私協力します
 なんかすごい熱い。それだけ、この弟帝の妃選びに熱量があるってことか。
花蓮
さ、つるさんもわかってくれたところでもう今日は遅いので休みますよ。
今日はお通りがある日なので、ふみさんは皇后様のお部屋の横でお願いしますね
文哉
あー、はい。
 そういえばさっきなんか頼まれてたっけ。完璧抜けてた。

 お通りは帝が皇后に会いに来る日なんだけど、まぁ大抵は夜の営みがあるようだけど今日の場合僕がつくということはそうでないらしい。新米女官のはずなのにいろんな事を任されるもんだから前からいる女官は面白くないだろうなぁ。

 ただ、僕は出来れば文句を言いたい。いや、言える立場ではないんだけど
文哉
やっぱり、納得できません!
康祐
まぁまぁ文哉、頼むよお前しかいないんだって
 文句言ってしまった。現在の国の一番偉い人に…
文哉
皇后様がなんか大変な事態に巻き込まれてるのかと思って来たのに、なんなんですか
瑠姫
フフ、嬉しいなぁ。心配してくれてたんだ
文哉
そりゃあ心配しますよ。皇后様の作戦だって言うし、こんな妃選びのためって知ってたら断ってました
康祐
まぁそうだろうと思って秀太にもほんとの事は知らせてない
 秀太は知らないで作戦に荷担させられてるのか…ちょっと殺意わいてごめん。
瑠姫
でも、花蓮が言うには筋はいいみたいよ?
康祐
じゃあ安心だな
文哉
まぁ、ここまで来たら引くに引けないですし、万が一男ってばれたら僕の首が飛ぶんでしょ?
康祐
いや、そういうことはさせないつもりだけど
瑠姫
ヤスくん配下にいうこと聞いて貰えないんですもの。どうなるかわかりませんよ?
康祐
それは言わないで
瑠姫
あのときちゃんと統制とれてたら勝就様も危険な目にはあってないでしょうし、ふみちゃんだって武官になれてたでしょう?
康祐
それはほんと申し訳なかったと思ってる。文哉マジごめん
文哉
いや、謝らないでください。
瑠姫
帝になったけど、こんなだから
康祐
もう、瑠姫いじめるなよ
瑠姫
ただね、ふみちゃん。もしかしたら時間がないかもしれないの
文哉
どういう…
康祐
お前とカツが一緒にいるのを良しとしない連中がいるのは知ってるよな?
文哉
まぁ、話の流れでは
康祐
お前が休みを貰ったことを怪訝に思っている奴もいてだな。お前がいないことがわかったら探すかもしれない。一応、秀太が動いてくれてるけど
瑠姫
もー、ほんとしつこいんだけど。
康祐
俺だってカツを取り戻せればこんな回り道しないよ
文哉
え、どういう?
康祐
たぶん、カツの回りにいる奴らは信用できない連中なんだよ。カツもそれに気付いて心は開いてないようだけど
瑠姫
家臣に命を狙われてるのよ。早く首切れって言ったのにしないから
康祐
どこまでが敵か見定められなくて
瑠姫
このふざけたみたいな弟帝の妃選びだってその家臣たちが企てたの。
まぁ、純姫が確定だろうって言われてるくらいだから、きっと純姫も駒よね。
なんか適当に理由つけて『謀反を起こすつもりだ』って話を持ってけば誰の手も汚さずに消すことが出来るのよ
 頭が真っ白になった。

 この状況でどう転んでも死亡フラグしかないような世界で一人で戦っていたと言うのか? もしかしたらいつ死んでもいいって覚悟すらあるのかもしれない。
康祐
こんな危険な妃選びに他の誰かを出すわけにいかないっていう事もあって
文哉
なるほどね、そこで僕に白羽の矢が立った
康祐
あのとき、カツを孤立させるために動いてる奴がいるなんて気付けなかったんだよ。文哉が傍にいるっていうのがこんな重要だと思ってなくて…
 自分の事ばっかり考えていたけど、確かに僕の家族がいきなり下町に豪邸を与えられたのもこの時期だった。両親は喜んでいたけど、そうじゃなくて…
康祐
たぶん、最終的にはこの国を乗っ取ろうとしてる気がする
瑠姫
ヤスくんは秀太と敵の尻尾を捕まえるために動いてはいたの。でも、後宮に目を付けてくるなんて思ってなかった。こんな女官まで駒に使おうとするなんて許せないんだけど
康祐
瑠姫、めっちゃ怒ってない?
瑠姫
やだ、なんかどんどん腹立ってきちゃって
文哉
じゃあ、毒を盛ったのは?
瑠姫
たぶん純姫辺りの人間だと思います。後宮での食事会の時だったし
康祐
またすごいとこで毒盛ろうとしたよなぁ
瑠姫
みんなの目の前で毒を盛ることで妃に立候補する方を減らしたのよ。もちろん、毒の強さは予想外だったでしょうけど
文哉
黒幕が純姫様を騙しているって解釈でいいですか?
康祐
そうだな、純姫自身はそんな危険な思想の持ち主ではないはずだ
瑠姫
まぁ、ヤスくんが私にしか目がないから、困ってる子達はいるかもしれないけどね
康祐
言うねぇー
 こらこら、突然惚気るな。
文哉
それで、かつくんは今安全なの?
康祐
安全ではないだろうけど、命の危険はないと思う。ここで手を汚すなんて事はしないだろ?
瑠姫
逆にふみちゃんが狙われると思うから注意してね
文哉
え、僕?
康祐
純姫に確定と言われてたところの我らがふみちゃんだからな
瑠姫
でも、ふみちゃんなら大丈夫よね?
 そうか、この方々は僕の性格や能力をわかった上でこの作戦を考えたのか。
康祐
文哉、ほんとに申し訳ない。こんな状況で助けてくれっていうのが間違っているかもしれない。でも、この状況になってどうしたらいいか何度も話し合って、俺たちだけじゃもうどうにも出来なくなってて、文哉だけが最後の光なんだよ。
文哉
大丈夫ですよ、お任せください。僕が必ずかつくんを守ってみせます。ただ、そちらはそちらで早くこの事態を納めるようお願いしますよ
康祐
もちろん
 いつぶりかわからないけど、グータッチをして笑いあった。
 そこで僕は部屋を出ようと思ったんだけど、皇后様のとにかく長い話に付き合わされることになり、朝方まで話を聞くことになった。

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