とにかく花蓮さんの教育はスパルタだった。優しい笑顔を見せておきながら厳しい。とにかく完璧を目指す感じだ。僕も負けず嫌いなためついつい一生懸命やってしまった。
目をキラキラさせた拓美さんが話してくれるけど、全然嬉しくない。休憩室で拓美さんのいれてくれたお茶を飲みながら、そういえば拓美さんってきれいだよなぁと思う。
なるほど、この子は案外頑固のようだ。フワッとしているようで芯が強いんだな。
部屋の外から話し声が聞こえてくる
いつから貴族になったのか…
横を見ると拓美さんが1本指立てて内緒のポーズをしながら耳を傾けていた。
その瞬間、聞き耳を立てていた扉が開いた
廊下にその勢いで飛び出した僕は世界一怖い笑顔を見た気がした。
立ち上がり、ポンポンと裾を払う。集中、集中しろ。息を整え、先ほど習った舞の最初のポーズをとる。きっとここで失敗したらダメなやつだ。
大丈夫、何度も見てきた舞だ。
僕の舞にみんなが見とれている気がした。男だからって舞は習ってこなかったけど、子どもの頃からずっと見てきた。だからか、覚えるのも容易かった。
踊り終えた僕に拍手してくれた。
つるさんは少しうつむきぎみで、少し震えていた。そんなに嫌われているのか…
つるさんは目にいっぱい涙をためて僕の手を両手で掴んだ。
僕は呆気にとられてしまった。いや、さっきまでめっちゃアンチだったじゃん。
なんかすごい熱い。それだけ、この弟帝の妃選びに熱量があるってことか。
そういえばさっきなんか頼まれてたっけ。完璧抜けてた。
お通りは帝が皇后に会いに来る日なんだけど、まぁ大抵は夜の営みがあるようだけど今日の場合僕がつくということはそうでないらしい。新米女官のはずなのにいろんな事を任されるもんだから前からいる女官は面白くないだろうなぁ。
ただ、僕は出来れば文句を言いたい。いや、言える立場ではないんだけど
文句言ってしまった。現在の国の一番偉い人に…
秀太は知らないで作戦に荷担させられてるのか…ちょっと殺意わいてごめん。
頭が真っ白になった。
この状況でどう転んでも死亡フラグしかないような世界で一人で戦っていたと言うのか? もしかしたらいつ死んでもいいって覚悟すらあるのかもしれない。
自分の事ばっかり考えていたけど、確かに僕の家族がいきなり下町に豪邸を与えられたのもこの時期だった。両親は喜んでいたけど、そうじゃなくて…
こらこら、突然惚気るな。
そうか、この方々は僕の性格や能力をわかった上でこの作戦を考えたのか。
いつぶりかわからないけど、グータッチをして笑いあった。
そこで僕は部屋を出ようと思ったんだけど、皇后様のとにかく長い話に付き合わされることになり、朝方まで話を聞くことになった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!