第12話

Another2
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2021/02/25 04:03
康祐
あーもー、しゅうたー
 宮殿の中の一室。帝の自室だがいつ人が謁見しても良いよう簡易な玉座は用意してある部屋だった。玉座に座りながら、康祐はモヤモヤしているようだった。
秀太
どうしたんです?
康祐
どうしたもこうしたも
秀太
まだ悩んでるんですかー?
康祐
人事なんかわかんないし、秀太くらいしかいないし、信頼なんてないし、強くもないし…
秀太
ちょっとなに突然いじけてるんですか
康祐
思い出しちゃったんだよねー、父上の生前の会話。父上が亡くなったショックとかで忘れてたんだけど
秀太
いや、なんで忘れてるかなぁ
康祐
なーんか嫌な予感するんだよ。今夜とりあえず、瑠姫んとこいくわ。勝の妃選びの進展情報も聞きたいし
秀太
はいはい、準備しておきますね
 部屋の外から慌ただしい足音が響く。康祐は背筋を伸ばし椅子に座り直し、秀太はすぐさま部屋の入り口に立つ。敵じゃないことを確認し部屋に通すと汗だくの従者がそこにいた。
従者
陛下、お伝えしたいことがあります
秀太
何がありましたか?
従者
はい、あの、皇太弟のお食事に毒が…
康祐
なっ
秀太
またですか、それで毒見は?
従者
あの、その…今回は毒見は大丈夫だったのですが、皇太弟が、その…
康祐
はっきり言え!
従者
…弟帝様が毒を召し上がられてしまいました。毒見の食べたものは大丈夫だったのですが…
秀太
わかりました、下がって良い。
従者
はっ
 従者が部屋を出た瞬間、康祐が頭を抱える。
秀太
予感的中ですね
康祐
言うなよ
秀太
とりあえず、どういう状況か探ってきますね。で、今夜は?
康祐
…行く
秀太
まぁ、後宮あっちの方が安全ではあるかもしれませんね
康祐
お前も今日は帯同な
秀太
えー、アレ飲まなきゃいけないじゃないですか
康祐
そろそろ慣れろ
秀太
慣れません
 『ふっ』っと二人で吹き出し、笑う。焦っても仕方がない。立場上すぐに駆けつけることも出来ない。分かっていたからこそもどかしかった。
康祐
ふぅ、秀太ありがとな
秀太
はい、陛下の落ち込む姿など誰も見たくありませんからね。では、俺いってきますよ
康祐
頼んだ
 秀太が部屋からいなくなるとフーッとため息をつき天を仰いだ。
康祐
大丈夫。俺は負けない
 落ち着かない気持ちを押さえようと書類に目を通す。その書類のひとつに懐かしい名前を見つける。
康祐
…まだ俺を慕ってくれているだろうか?
ゆっくりとその名前を指でなぞる。
康祐
…文哉

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