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第8話

双子の星 二 4
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2022/04/13 23:00
 ポウセ童子がよろこんで申しました。
ポウセ童子
それでは王様は私共の王様をご存じでいらっしゃいますか。
 王はあわてて椅子いすを下って申しました。
王様
いいえ、それどころではございません。
王様はこの私のただ一人の王でございます。
遠いむかしから私めの先生でございます。
私はあのお方のおろかなしもべでございます。
いや、まだおわかりになりますまい。
けれどもやがておわかりでございましょう。
それでは夜の明けないうちに竜巻におともいたさせます。
これ、これ。
支度したくはいいか。
 一ぴきのけらいの海蛇が
海蛇
はい、ご門の前にお待ちいたして居ります。
と答えました。
 二人は丁寧ていねいに王にお辞儀をいたしました。
双子
それでは王様、ごきげんよろしゅう。
いずれ改めて空からお礼を申しあげます。
このお宮のいつまでも栄えますよう。
 王は立って云いました。
王様
あなた方もどうかますます立派にお光り下さいますよう。
それではごきげんよろしゅう。
 けらいたちが一度に恭々しくお辞儀をしました。
 童子たちは門の外に出ました。
 竜巻が銀のとぐろを巻いてねています。
 一人の海蛇が二人をその頭にせました。
 二人はそのつのに取りつきました。
 その時赤い光のひとでが沢山出て来てさけびました。
ひとでたち
さよなら、どうか空の王様によろしく。
私どももいつか許されますようおねがいいたします。
 二人は一緒いっしょに云いました。
双子
きっとそう申しあげます。
やがて空でまたお目にかかりましょう。
 竜巻がそろりそろりと立ちあがりました。
双子
さよなら、さよなら。
 竜巻はもう頭をまっくろな海の上に出しました。

 と思うと急にバリバリバリッとはげしい音がして竜巻は水と一所に矢のように高く高くはせのぼりました。
 まだ夜があけるのに余程よほど間があります。

 天の川がずんずん近くなります。

 二人のお宮がもうはっきり見えます。
竜巻
一寸ちょっとあれをご覧なさい。
やみの中で竜巻が申しました。
 見るとあの大きな青白い光りのほうきぼしはばらばらにわかれてしまって頭も尾も胴も別々にきちがいのようなすごい声をあげガリガリ光ってまっ黒な海の中に落ちて行きます。
竜巻
あいつはなまこになりますよ。
と竜巻がしずかに云いました。
 もう空の星めぐりの歌が聞えます。
 そして童子たちはお宮につきました。
 竜巻は二人をおろして
竜巻
さよなら、ごきげんよろしゅう
と云いながら風のように海に帰って行きました。
 双子のお星さまはめいめいのお宮に昇りました。

 そしてきちんとすわって見えない空の王様に申しました。
双子
私どもの不注意からしばらく役目を欠かしましてお申し訳けございません。
それにもかかわらず今晩はおめぐみによりまして不思議に助かりました。
海の王様が沢山の尊敬をお伝えしてれと申されました。
それから海の底のひとでがお慈悲じひをねがいました。
又私どもから申しあげますがなまこももしできますならお許しを願いとう存じます。
 そして二人は銀笛ぎんてきをとりあげました。
 東の空が黄金色きんいろになり、もう夜明けに間もありません。

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