第7話

双子の星 二 3
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2022/04/06 23:00
ははあ、新兵だな。
まだお辞儀のしかたも習わないのだな。
このくじら様を知らんのか。
俺のあだなは海の彗星ほうきぼしと云うんだ。
知ってるか。
俺はいわしのようなひょろひょろの魚やめだかの様なめくらの魚はみんなパクパクんでしまうんだ。
それから一番痛快なのはまっすぐに行ってぐるっと円を描いてまっすぐにかえる位ゆっくりカーブを切るときだ。
まるでからだの油がねとねとするぞ。
さて、お前は天からの追放の書き付けを持って来たろうな。
早く出せ。
 二人は顔を見合せました。チュンセ童子が
チュンセ童子
僕らはそんなもの持たない。
と申しました。
 するとくじらが怒って水を一つぐうっと口からきました。

 ひとではみんな顔色を変えてよろよろしましたが二人はこらえてしゃんと立っていました。
 鯨がこわい顔をして云いました。
書き付けを持たないのか。
悪党め。
ここに居るのはどんな悪いことを天上でして来たやつでも書き付けを持たなかったものはないぞ。
貴様らは実にけしからん。
さあ。呑んでしまうからそう思え。
いいか。
 鯨は口を大きくあけて身構えしました。

 ひとでや近所の魚は巻きえを食っては大変だと泥の中にもぐり込んだり一もくさんに逃げたりしました。
 その時向うから銀色の光がパッとして小さな海蛇うみへびがやって来ます。

 くじらは非常におどろいたらしく急いで口を閉めました。
 海蛇は不思議そうに二人の頭の上をじっと見て云いました。
海蛇
あなた方はどうしたのですか。
悪いことをなさって天から落とされたお方ではないように思われますが。
 鯨が横から口を出しました。
こいつらは追放の書き付けも持ってませんよ。
 海蛇がすごい目をして鯨をにらみつけて云いました。
海蛇
だまっておいで。
生意気な。
このお方がたをこいつらなんてお前がどうして云えるんだ。
お前にはい事をしていた人の頭の上の後光が見えないのだ。
悪い事をしたものなら頭の上に黒い影法師かげぼうしが口をあいているからすぐわかる。
お星さま方。
こちらへおで下さい。
王の所へご案内申しあげましょう。
おい、ひとで。
あかりをともせ。
こら、くじら。
あんまり暴れてはいかんぞ。
 くじらが頭をかいて平伏へいふくしました。
 愕ろいた事には赤い光のひとでがはばのひろい二列にぞろっとならんで丁度街道のあかりのようです。
海蛇
さあ、参りましょう。
 海蛇は白髪はくはつって恭々うやうやしく申しました。

 二人はそれに続いてひとでの間を通りました。

 まもなくあおぐろい水あかりの中に大きな白い城の門があってそのがひとりでに開いて中から沢山の立派な海蛇が出て参りました。

 そして双子のお星さまだちは海蛇の王さまの前に導かれました。

 王様は白い長いひげの生えた老人でにこにこわらって云いました。
王様
あなた方はチュンセ童子にポウセ童子。
よく存じて居ります。
あなた方が前にあの空のさそりの悪い心を命がけでお直しになった話はここへも伝わって居ります。
私はそれをこちらの小学校の読本とくほんにも入れさせました。
さて今度はとんだ災難で定めしびっくりなさったでしょう。
 チュンセ童子が申しました。
チュンセ童子
これはおことばまことおそれ入ります。
私共はもう天上にも帰れませんしできます事ならこちらで何なりみなさまのお役に立ちたいと存じます。
 王が云いました。
王様
いやいや、そのご謙遜けんそんは恐れ入ります。
早速竜巻たつまきに云いつけて天上にお送りいたしましょう。
お帰りになりましたらあなたの王様に海蛇めがよろしく申し上げたとっしゃって下さい。

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