第4話

双子の星 一 4
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2022/03/16 23:00
ポウセ童子
もうぼくらは帰らないといけない。
困ったな。
ここらの人はたれか居ませんか。
 ポウセ童子が叫びました。

 天の野原はしんとして返事もありません。
 西の雲はまっかにかがやき蠍のも赤く悲しく光りました。

 光の強い星たちはもう銀のよろいを着て歌いながら遠くの空へ現われた様子です。
子供1
一つ星めつけた。
長者になあれ。
 下で一人の子供がそっちを見上げて叫んでいます。
 チュンセ童子が
チュンセ童子
蠍さん。
も少しです。
急げませんか。
つかれましたか。
と云いました。
 蠍があわれな声で、
どうもすっかり疲れてしまいました。
どうか少しですからお許し下さい。
と云います。
子供2
 星さん星さん一つの星で出ぬもんだ。
 千も万もででるもんだ。
 下で別の子供が叫んでいます。

 もう西の山はまっ黒です。

 あちこち星がちらちら現われました。
 チュンセ童子は背中がまがってまるでつぶれそうになりながら云いました。
チュンセ童子
蠍さん。
もう私らは今夜は時間におくれました。
きっと王様にしかられます。
事によったら流されるかも知れません。
けれどもあなたがふだんの所に居なかったらそれこそ大変です。
 ポウセ童子が
ポウセ童子
私はもう疲れて死にそうです。
蠍さん。
もっと元気を出して早く帰って行って下さい。
 と云いながらとうとうバッタリたおれてしまいました。

 蠍は泣いて云いました。
どうか許して下さい。
私は馬鹿です。
あなた方のかみの毛一本にもおよびません。
きっと心を改めてこのおわびはいたします。
きっといたします。
 この時水色のはげしい光の外套がいとうを着た稲妻いなずまが、向うからギラッとひらめいて飛んで来ました。

 そして童子たちに手をついて申しました。
稲妻
王様のご命でおむかいに参りました。
さあご一緒いっしょに私のマントへおつかまり下さい。
もうすぐお宮へお連れ申します。
王様はどう云う訳かさっきからひどくおよろこびでございます。
それから、蠍。
お前は今までにくまれ者だったな。
さあこの薬を王様から下すったんだ。
飲め。
 童子たちはさけびました。
双子
それでは蠍さん。
さよなら。
早く薬をのんで下さい。
それからさっきの約束やくそくですよ。
きっとですよ。
さよなら。
 そして二人は一緒に稲妻のマントにつかまりました。

 蠍が沢山たくさんの手をついて平伏へいふくして薬をのみそれから丁寧ていねいにお辞儀じぎをします。
 稲妻がぎらぎらっと光ったと思うともういつかさっきの泉のそばに立ってりました。

 そして申しました。
稲妻
さあ、すっかりおからだをお洗いなさい。
王様から新らしい着物とくつを下さいました。
まだ十五分があります。
 双子のお星様たちは悦んでつめたい水晶すいしょうのような流れを浴び、においのいい青光りのうすもののころもを着け新らしい白光りの沓をはきました。

 するともう身体からだの痛みもつかれも一遍にとれてすがすがしてしまいました。
稲妻
さあ、参りましょう。
 と稲妻が申しました。

 そして二人がまたそのマントに取りつきますと紫色むらさきいろの光が一遍ぱっとひらめいて童子たちはもう自分のお宮の前に居ました。

 稲妻はもう見えません。
ポウセ童子
チュンセ童子、それでは支度したくをしましょう。
チュンセ童子
ポウセ童子、それでは支度をしましょう。
 二人はお宮にのぼり、向き合ってきちんとすわ銀笛ぎんてきをとりあげました。
 丁度あちこちで星めぐりの歌がはじまりました。
「あかいめだまの さそり
 ひろげたわしの  つばさ
 あおいめだまの 小いぬ、
 ひかりのへびの とぐろ。

 オリオンは高く うたい
 つゆとしもとを おとす、
 アンドロメダの くもは
 さかなのくちの かたち。

 大ぐまのあしを きたに
 五つのばした  ところ。
 小熊こぐまのひたいの うえは
 そらのめぐりの めあて。」
 双子のお星様たちは笛をきはじめました。

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