双子の星 一
天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。
あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精のお宮です。
このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っています。
夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛を吹くのです。
それがこの双子のお星様の役目でした。
ある朝、お日様がカツカツカツと厳かにお身体をゆすぶって、東から昇っておいでになった時、チュンセ童子は銀笛を下に置いてポウセ童子に申しました。
ポウセ童子が、まだ夢中で、半分眼をつぶったまま、銀笛を吹いていますので、チュンセ童子はお宮から下りて、沓をはいて、ポウセ童子のお宮の段にのぼって、もう一度云いました。
ポウセ童子はやっと気がついて、びっくりして笛を置いて云いました。
そしてポウセ童子は、白い貝殻の沓をはき、二人は連れだって空の銀の芝原を仲よく歌いながら行きました。
そしてもういつか空の泉に来ました。
この泉は霽れた晩には、下からはっきり見えます。
天の川の西の岸から、よほど離れた処に、青い小さな星で円くかこまれてあります。
底は青い小さなつぶ石でたいらにうずめられ、石の間から奇麗な水が、ころころころころ湧き出して泉の一方のふちから天の川へ小さな流れになって走って行きます。
私共の世界が旱の時、瘠せてしまった夜鷹やほととぎすなどが、それをだまって見上げて、残念そうに咽喉をくびくびさせているのを時々見ることがあるではありませんか。
どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。
けれども、天の大烏の星や蠍の星や兎の星ならもちろんすぐ行けます。
チュンセ童子が沓をぬいで小流れの中に入り、ポウセ童子は岸から手ごろの石を集めはじめました。
今は、空は、りんごのいい匂いで一杯です。
西の空に消え残った銀色のお月様が吐いたのです。
ふと野原の向うから大きな声で歌うのが聞えます。
童子たちは一緒に云いました。
もう空のすすきをざわざわと分けて大烏が向うから肩をふって、のっしのっしと大股にやって参りました。
まっくろなびろうどのマントを着て、まっくろなびろうどの股引をはいて居ります。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!