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第1話

双子の星 一 1
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2022/02/23 23:00
双子の星 一
 あまがわの西の岸にすぎなの胞子ほうしほどの小さな二つの星が見えます。

 あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精すいしょうのお宮です。
 このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っています。

 夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんとすわり、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛ぎんてきくのです。

 それがこの双子のお星様の役目でした。
 ある朝、お日様がカツカツカツとおごそかにお身体からだをゆすぶって、東からのぼっておいでになった時、チュンセ童子は銀笛を下に置いてポウセ童子に申しました。
チュンセ童子
ポウセさん。
もういいでしょう。
お日様もお昇りになったし、雲もまっ白に光っています。
今日は西の野原の泉へ行きませんか。
 ポウセ童子が、まだ夢中むちゅうで、半分をつぶったまま、銀笛を吹いていますので、チュンセ童子はお宮から下りて、くつをはいて、ポウセ童子のお宮の段にのぼって、もう一度いました。
チュンセ童子
ポウセさん。
もういいでしょう。
東の空はまるで白く燃えているようですし、下では小さな鳥なんかもう目をさましている様子です。
今日は西の野原の泉へ行きませんか。
そして、風車かざぐるまきりをこしらえて、小さなにじを飛ばして遊ぼうではありませんか。
 ポウセ童子はやっと気がついて、びっくりして笛を置いて云いました。
ポウセ童子
あ、チュンセさん。
失礼いたしました。
もうすっかり明るくなったんですね。
ぼく今すぐ沓をはきますから。
 そしてポウセ童子は、白い貝殻かいがらの沓をはき、二人は連れだって空の銀の芝原しばはらを仲よく歌いながら行きました。
双子
 お日さまの、
 お通りみちを はききよめ、
 ひかりをちらせ あまの白雲。
 お日さまの、
 お通りみちの 石かけを
 深くうずめよ、あまの青雲。
 そしてもういつか空の泉に来ました。
 この泉はれた晩には、下からはっきり見えます。

 天の川の西の岸から、よほどはなれたところに、青い小さな星で円くかこまれてあります。

 底は青い小さなつぶ石でたいらにうずめられ、石の間から奇麗きれいな水が、ころころころころき出して泉の一方のふちから天の川へ小さな流れになって走って行きます。

 私共の世界がひでりの時、せてしまった夜鷹よだかやほととぎすなどが、それをだまって見上げて、残念そうに咽喉のどをくびくびさせているのを時々見ることがあるではありませんか。

 どんな鳥でもとてもあそこまでは行けません。

 けれども、てん大烏おおがらすの星やさそりの星やうさぎの星ならもちろんすぐ行けます。
チュンセ童子
ポウセさんまずここへたきをこしらえましょうか。
ポウセ童子
ええ、こしらえましょう。僕石を運びますから。
 チュンセ童子が沓をぬいで小流れの中に入り、ポウセ童子は岸から手ごろの石を集めはじめました。
 今は、空は、りんごのいいにおいいで一杯いっぱいです。

 西の空に消え残った銀色のお月様がいたのです。
 ふと野原の向うから大きな声で歌うのが聞えます。
大烏
 あまのがわの にしのきしを、
 すこしはなれたそらの井戸。
 みずはころろ、そこもきらら、
 まわりをかこむあおいほし。
 夜鷹ふくろう、ちどり、かけす、
 来よとすれども、できもせぬ。
双子
あ、大烏の星だ。
童子たちは一緒いっしょに云いました。
 もう空のすすきをざわざわと分けて大烏が向うからかたをふって、のっしのっしと大股おおまたにやって参りました。

 まっくろなびろうどのマントを着て、まっくろなびろうどの股引ももひきをはいてります。

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