第8話

抹消
38
2020/10/23 09:54
貴方と私は付き合っていた。
なんて、状況を混乱させるようなこと言えるわけないわよね。


驚いたわ。だって、記憶喪失なんて現実にいるとは思わなかったのだもの。いたとしても、知り合いがなんて。
貴方はいっつも無理をしていた。
気づかないわけないじゃない。バレバレなのに変に隠しちゃって。
物事を隠すのが下手すぎるせいで、隠してるのを隠すのが上手すぎるのよ。

冗談よ、気づけなかった私の問題ってことは、流石に私でもわかるわ
私は鈍いからね。あなたは隠したがりだし、もしかしたら最初から、相性よくなかったのかも……
いや、いいわけないわよね。貴方を無理させすぎたのは私の問題よ。

うん……物凄く反省しているわ、誰に謝ればいいかも……わかんないけど。
でも、貴方も悪いのよ?ちょっとぐらい相談してくれてもいいじゃない、……だって…倒れるくらい無理してたんなら……ストレスで私の記憶だけを抹消するくらい辛かったんなら…………言って欲しかった。
貴方は無理しすぎなのよ。私は怒ってなんかいないのに、何も求めなかったのに。
一緒にいてくれるだけで……よかったのに。
もう、貴方には関わらないと決めた。やり直せたとしても、貴方にとってそれは辛いだけだもの。
貴方は…貴方は死んだのよ。もう違う人間なの。

私以外のことは覚えてるんだし…………きっと幸せになれるよね。
……わがままを言わせて。
せめて友達として…一緒にいさせて。





貴方
俺、お前のこと好きだった気がするんだ。
なにそれ。告白?なにそれ…。また倒れるんでしょ、無理するんでしょ、私といて幸せになれるわけないのに。

私のどこが好きなの?クズなのに、なんで?
………………私は貴方のこと、好きじゃない。
この選択は間違っているかもしれない。もしかしたら、付き合ったら幸せになれるかも、やり直せるかもしれない。

でも……嫌なの、少しでも可能性があるのが。私、臆病だから。








さよなら

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