第9話

acht 自由を掴む
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2021/05/07 10:19
トントン
トントン
なぁ!ロイバァさん!これ、どうしたらええんですか?
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
あぁ?それは、下の保管庫だ。
場所わかるか?
トントン
トントン
ルストくんが教えてくれるんで大丈夫や!
いつのまにか仲良くなっていたトントンとロイバァ。
それを見て軽く嫉妬している自分を認めようとしない元幹部たちがいる。
グルッペン
グルッペン
トン氏………アイツは海賊やぞ……
ひとらんらん
ひとらんらん
グルちゃん……顔に出てるよ
そんな会話をしてるとは知らずにトントンは肩にルストを連れて下へ降りて行った。

下は食糧、火薬、掃除道具にロープや工具などの道具が保管されている。また、小さな牢屋が一つ。そして、大砲が数台と。甲板には三つの大砲、下には六つ。
ショッピ
ショッピ
ふふwトントンさんいつのまに懐いたんやろな?ガオナァ
チーノ
チーノ
多分、船長室行ってからやろwおもろいわ〜
舵を取りながらそうな話をしている2人に睨みつけるグルッペン。しかし、2人は動じる事なく笑った。
トントン
トントン
あ!ちー……じゃなかった。ガオナァ!
ロイバァさん呼んどる
チーノ
チーノ
あ。はーい!
チーノはロイバァの元へ小走りで向かう。
ショッピ
ショッピ
ふふwトントンさん、楽しそうっすね?
軍にいた時より表情ゆるゆるっすよ
トントン
トントン
わ、悪いか?てか、煽ってくんなやショッピ
ショッピ
ショッピ
『イロニー』っすよ昼間は。
トントン
トントン
あ。ごめん
ショッピ
ショッピ
いいっす
慣れへんと思うけどそのうち慣れるやろうし
ショッピとトントンはじっと甲板をみる。
狂犬たちはいつものように喧嘩しており、エーミールがそれに巻き込まれている。
ショッピ
ショッピ
怒らないんすね?
トントン
トントン
え、あ、うん
武器も無いし、内ゲバまではいかんやろ?
ショッピ
ショッピ
それに、キャプテン居るもんな〜
2人は笑う。心地よい風が船を吹き抜ける。
トントンの表情は確実に緩くなっている。責任というものが今は無いからだろうか……
トントン
トントン
なぁ、しょっ………イロニーも【魔女の涙】持ってるんか?
トントンの質問に驚く。知っていたのか、と。
トントンはこう続ける。
「ロイバァに聞いた」と。
ショッピ
ショッピ
持ってるで。
この斧が【魔女の涙】。ほら、あるでしょう?エンブレム
背中に携えていた戦斧(戦闘用の斧。バトルアックス)を取り出す。
ツノがついた魔女の横顔と何処の国かもわからない文字。
ショッピ
ショッピ
目に映るモノを全て殺す呪いっす。味方とか敵とか関係なく、ね
トントン
トントン
せやったんか………
ショッピ
ショッピ
色んな武器を使って、気を紛らわせてたんやけど…落ち着かんくてな……ここでなら、キャプテンもガオナァも死にはせんから制御しやすくて…
そう告げるショッピは困ったように微笑んだ。彼もまた、呪いで苦しんでいるのだ。
この海賊たちは人より遥かに優しい。グルッペンたちが思っている以上に。
トントン
トントン
俺に……僕にできることってある?
ショッピ
ショッピ
そうっすね……
俺からは特に。
まぁ、自由になってください!それだけで俺はええんで
ショッピの言葉に思わず固まってしまうが、すぐに笑みを浮かべて『わかった』と答えた。
それが望みなら、と。
トントン
トントン
……自由、か。
トントンは空を見上げる。青い空。軍にいた頃より広く感じる空。
グルッペン
グルッペン
トン氏!何してるんだ?
トントン
トントン
ちょっと考え事……
グルッペン
グルッペン
そうか………なぁ、トン氏。
国を創りたい。我々の国を。トン氏には隣に居てもらいたい。どうだ?
グルッペンの言葉にトントンは驚く。グルッペンは自分達の国を創りたいという。
トントン
トントン
すぐには答えられへん………ごめん
グルッペン
グルッペン
海賊に何か言われたのか?
トントン
トントン
違う………俺の意見を考えたいだけや。勝手にあの人を巻き込むな。
トントンはそう言い武器庫へ向かった。

グルッペンの中に、モヤモヤと残る黒いモノ。それは一体なんなのか。彼にはわからない。
鬱先生
鬱先生
グルちゃん………トンち……
鬱先生はグッと拳を握り、動き出す。
向かう先は船長室。


船長室は何故か鍵が開いていた。
鬱先生
鬱先生
無用心やな……
と、ん?ライター?随分と綺麗なもんやな。
もろとこ
変わったライターを懐にしまう。そして、部屋をさった。
彼の目的はロイバァの私物を奪うことのようだった。脅しに使えると考えたのだ。
鬱先生
鬱先生
(アイツ……タバコ吸うてんのか?)
など、考えながら歩く。
相変わらず、トントンはロイバァと話をしていた。
ロイバァは船首にたち、海を眺める。
トントン
トントン
なぁ、ロイバァさん。
ロイバァさんにとって自由って何?
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
自由か。……今、この時。この瞬間だと俺は考える。
自由とは自分のやりたいことをやる、とも考えている。
トントン
トントン
はぇ〜流石やわ。
俺は、何したいんやろ?
グルッペンに言われたことを悩む。1人では大きすぎる悩みだ。
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
それは、お前にしかわからない。俺はお前のやりたいことの手助けしかできない。国に帰りたければ送り届けるのみ。
旅をしたいのなから、食糧などわける。
とかな?
トントン
トントン
ほな、ロイバァさん。
俺、海賊になりたい………って言ったらどうする?
トントンはジッと彼をみた。
鬱先生が隠れているとは知らず、そう告げる。
鬱先生
鬱先生
(と、トントン!?何言うてんの!?)
口元を押さえて、ジッと気配を消す。
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
止めはしない。が、俺とともに来るというのなら止める。
呪われてしまうからな
トントン
トントン
それで、ええんやけど。
あなたがいるから、言いますけど
ショッピもチーノも、居るし。ロイバァさんに着いていけば見たことのない世界を見せてくれそうやなって思った。
海も、この船も、冒険譚も、俺には初めてのことやったから
ロイバァは黙って、彼の声を聞く。
トントン
トントン
子供の頃の夢やった。山賊なんかより、もっと、楽しいことがしたい。見たことのない世界を見たい!自由に、生きてみたいって。
海を、渡ってみたい!
だから、!
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
わかった。
静かに言った。ロイバァの顔は柔らかく、とても嬉しそうに笑っていた。子供のように、フワリと。
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
イロニーとガオナァから聞いた通りだ。
お前は面白いな。

これをやる。
赤い宝石が嵌め込まれた腕輪。
赤い宝石の中には魔女の横顔、その周りの金属部分には細かな文字が連なっている。
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
【魔女の涙】の一つ。伝説では『力なきものには怪力を、力ありしものには守護の力をもたらす』と言う代物だ。
生憎、俺はそいつに呪われなかった。
トントン
トントン
はっ!まるで、俺みたいやわ。
試す価値、あるやん
トントンは躊躇いなく腕輪を左に装着した。淡く光る赤い宝石。魔女が微笑まんでいるようにみえる。
守護の魔女
守護の魔女
汝、我を求める者よ。
汝に力を授けよう。
トントン
トントン
え。
女の人の声がした。けれど、どこにも居ない。
不死の魔女
不死の魔女
また、増えたのね、ロイバァ。
汝、名を告げよ。
トントン
トントン
え。お、俺は………トントン、です
不死の魔女
不死の魔女
汝に不死をもたらそう。
2人の女の人の声がする。けれど、姿は見えない。
不死?力?
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
ようこそ。パラディーゾ海賊団へ。歓迎するぜ?
さて、お前にも名をくれてやらねばな。『リッター』。リッターはどうだ?
トントン
トントン
リッター………はい!
キャプテン・ロイバァ
キャプテン・ロイバァ
改めて、俺はキャプテン・ロイバァ!!
全ての海を手に入れる男だ!
少年のように笑う、ロイバァ。トントンはニコリと微笑み
トントン
トントン
改めて。リッターや。これから、よろしく。
キャプテン!!
嬉しそうにそう告げた。

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