玄関先で名残惜しそうに晴果はサキと握手をした。
そのありがとうには沢山の意味が籠っている。
何せ今日は色々あったから。
『ガチャン』
ドアが閉まったあと、二人へ向き直し、顔を歪ませるヒロ。
こうして二人も居なくなり、
静かな部屋にまたら扉が閉まる音がした。
それから、その静かな部屋に声が響く。
確かに、俺は、自分の気持ちにずっと嘘をついている。
初めはお姉さんのことを、本当の姉の様に慕うつもりだった。
沢山の女性の愛に触れて、愛されてきた俺には、
お姉さんの春の暖かさのような優しさが、
心に沁みすぎてしまった。
あまりにも、それが、
昔に一度だけあった恋のようで。
その感情に蓋を、した。
つもりだった。
けれど、
俺は、ホストだから。
嘘をつくのは得意だし、皆騙されてしまう。
なのに、なのに。
期待してしまう。
そんなのしてはいけない。
俺には、
そんなに優しい声で、俺に話しかけないで。
もっと、冷たくしたっていいのに。
もって、離れてくれたっていいのに。
何度だって、優しくしてくれる。
声が上擦る、バレてしまう。
俺の皮が剥がれてしまう。
でも、気持ちに蓋をしていいのか?
果たしてそれは本当に後悔しないのか?
例え叶わなくたっても、
不可能だったとしても。
俺に後悔してほしくないから、ガネさんはあぁ言った。
伝えなきゃ、ダメだろ。
進む前から、諦めるな。
白黒付けないボーダーラインで話す俺の職業。
でもこれは、仕事じゃない。
俺は、このときだけは、ホストじゃなくていいんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!