第21話

二十食目
29
2022/04/30 13:09
百井 晴果
百井 晴果
いいお花見日和ですね!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
そうですね、凄く綺麗…。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
いやー、暖かくなりましたね、あんなに寒すぎて凍りそうだったのに!
3月の最後、桜は満開、春の陽気で暑いほどだった。

まさに絶世の花見日和。
百井 晴果
百井 晴果
ほんとに…
『グゥゥ…』

何ともデジャヴだが、

また、ヒロのお腹から空腹を告げる音がした。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
す、すんません、お昼楽しみすぎてお腹空いちゃって…!
奏生は少し微笑んで、大きなレジャーシートを広げる。
三鳥 奏生
三鳥 奏生
じゃあこの辺にレジャーシート引きますね。
百井 晴果
百井 晴果
はい!じゃあ早速お昼にしましょう!
じゃーん!
代田 ヒロ
代田 ヒロ
わ!!凄い!!美味しそう!!
豪勢な大きな弁当と、おにぎりを並べた。

まるで運動会のお弁当のようで、

三人とも気分が上がっていた。
百井 晴果
百井 晴果
簡単なものばかりですけど、お気に召していただけたら…
三鳥 奏生
三鳥 奏生
わぁ、一人でこの量を?
百井 晴果
百井 晴果
はい、楽しみで張り切っちゃいました。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
このおにぎりは何の具が…?
百井 晴果
百井 晴果
それは梅です、
ヒロくん喜ぶかなって。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
え~~~!!ありがとうございます!
百井 晴果
百井 晴果
うぅん、食べて食べて!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
僕は、これ貰いますね?
百井 晴果
百井 晴果
お!やっぱり、
おかか好きだと思って…
三鳥 奏生
三鳥 奏生
え!何でわかるんですか、
百井 晴果
百井 晴果
魚介系のやつが好きかなって思ったんです。それは三鳥さん用なので!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
あ、ありがとう…ございます…!
ここでもさりげない気遣いが二人の心を暖めた。

晴果からしたら当然のことなので、

こう二人が喜んでくれるのを見て、笑顔になる。
百井 晴果
百井 晴果
さぁ、手を合わせて、いただきます!
代田 ヒロ
代田 ヒロ
いただきまーす!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
頂きます。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
ん!美味しい…!!
この唐揚げも最高…!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
卵焼き、僕好きです。
百井 晴果
百井 晴果
良かった…沢山作った甲斐がありました!
おにぎりを六つ、

それから大きなお弁当箱に、

唐揚げ、卵焼き、ミニトマト、アスパラのハム巻き、

春野菜のおかか和え、ウインナー、魚フライ、梅味の鶏肉のソテーや、

二人の健康と好きなもの、勿論自分の好きなものも詰めた。

その結果、美味しい、美味しいと、

自分含め皆笑顔になれたので晴果からしたら100点満点だ。

百井 晴果
百井 晴果
それからこちら、
デザートもあります!
代田 ヒロ
代田 ヒロ
お腹いっぱいのお腹急に空いた!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
やばい、美味しそう。
いちごとキウイ、それからバナナが串で差してある簡単なものだけど、

食べやすくしてあり、お腹がいっぱいでもパクパクと食べられた。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
あ、やべ、飲み物切れちゃった…
三鳥 奏生
三鳥 奏生
あ、僕買ってくる、
僕も切れちゃったから。ついでにね。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
えぇ!でも!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
荷物よろしくね、何がいい?
代田 ヒロ
代田 ヒロ
じゃあ…紅茶で!なんでもいいっす!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
了解。
百井 晴果
百井 晴果
気をつけてくださいね!
三鳥 奏生
三鳥 奏生
はい!
奏生がいなくなり、

風が吹く。

桜がバサバサと揺れる音がして、空を見た。
百井 晴果
百井 晴果
桜、綺麗だね。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
はは、お姉さんも綺麗っすよ?
百井 晴果
百井 晴果
わ、ほんと?髪今日頑張ったんだ。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
もー、お姉さん、
分かってないでしょ。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
俺、ね。
ヒロは晴果の目を見た。

数ヵ月前の覚悟を胸に、

用意した言葉は飛んだけれど、思いは変わらない。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
お姉さん、晴果さんのこと、好きなんだ。
百井 晴果
百井 晴果
え、…よ、酔ってる?
晴果の心臓は、跳ね上がった。

22歳の、隣人が思いを伝えたことに。

まさか、言われると思っていなかった、

その真剣な言葉と声に。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
はは、またまたぁ。俺の職業ホストだよ?酔わないし、飲んでない。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
シラフで言いたかったから。
百井 晴果
百井 晴果
…じゃあ、冗談?
代田 ヒロ
代田 ヒロ
…そんなに、冗談にしたいっすか?
百井 晴果
百井 晴果
…!違う、ちが、くて…
代田 ヒロ
代田 ヒロ
分かってる、これは俺なりのけじめです。だから聞いて。
眉を下げながら、ゆっくりとそう言う。

思っていたよりも、ヒロは緊張していなかった。

むしろ、わだかまりが消えるように、

紐の結び目が、解けていくように。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
好きです、百井晴果さん。
百井 晴果
百井 晴果
……ッ…!
代田 ヒロ
代田 ヒロ
分かってる、分かってるよ、大丈夫。お姉さん、お兄さんのこと好きなんでしょ。
百井 晴果
百井 晴果
え、
な、なんで知っているのだ、自分の心を。

未桜にも、サキにも言えなかったその心を。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
誰にも言ってなくてもわかる。
見ててもわかるもん。でもね。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
俺がそう思っていたことを、
知ってほしかった。晴果さんなら、
バカにも、無下にも、しないでしょ。
百井 晴果
百井 晴果
するわけ…ない…
百井 晴果
百井 晴果
ごめん…気持ちに、答えられなくて。
何故涙が出そうなのかは分からない、

けどその涙は、彼の前で流してはいけない。

きっと、流したいのは、ヒロの方だから。

ぐっと堪えて、答えた。
代田 ヒロ
代田 ヒロ
あーあ!絶対謝ると思った!
やめやめ!暗いのやめ!
百井 晴果
百井 晴果
代田 ヒロ
代田 ヒロ
それでも、配慮は絶対するから。
…また、俺にまた、料理…食べに行ってもいいっすか?
百井 晴果
百井 晴果
…勿論!!
代田 ヒロ
代田 ヒロ
ほら行って。荷物見とくっす。
百井 晴果
百井 晴果
でも、
代田 ヒロ
代田 ヒロ
俺、今お姉さんと二人になれないよ。
百井 晴果
百井 晴果
…ありがとう!
敢えて冷たく引き離したが、晴果は分かっていた。

今はここに居ないで、という気持ちを汲み取って、一粒の涙を拭って、走った。



代田 ヒロ
代田 ヒロ
…はは、…初めて、…俺らしくないけど…こんな、綺麗な。
居なくなってから、溢れ出す思い。

その思いは透明で、膝へとぽたぽたと落ちていった。


綺麗な、透明で、辛くない、痛くない、


紛れもない、恋だった。

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