3月の最後、桜は満開、春の陽気で暑いほどだった。
まさに絶世の花見日和。
『グゥゥ…』
何ともデジャヴだが、
また、ヒロのお腹から空腹を告げる音がした。
奏生は少し微笑んで、大きなレジャーシートを広げる。
豪勢な大きな弁当と、おにぎりを並べた。
まるで運動会のお弁当のようで、
三人とも気分が上がっていた。
ここでもさりげない気遣いが二人の心を暖めた。
晴果からしたら当然のことなので、
こう二人が喜んでくれるのを見て、笑顔になる。
おにぎりを六つ、
それから大きなお弁当箱に、
唐揚げ、卵焼き、ミニトマト、アスパラのハム巻き、
春野菜のおかか和え、ウインナー、魚フライ、梅味の鶏肉のソテーや、
二人の健康と好きなもの、勿論自分の好きなものも詰めた。
その結果、美味しい、美味しいと、
自分含め皆笑顔になれたので晴果からしたら100点満点だ。
いちごとキウイ、それからバナナが串で差してある簡単なものだけど、
食べやすくしてあり、お腹がいっぱいでもパクパクと食べられた。
奏生がいなくなり、
風が吹く。
桜がバサバサと揺れる音がして、空を見た。
ヒロは晴果の目を見た。
数ヵ月前の覚悟を胸に、
用意した言葉は飛んだけれど、思いは変わらない。
晴果の心臓は、跳ね上がった。
22歳の、隣人が思いを伝えたことに。
まさか、言われると思っていなかった、
その真剣な言葉と声に。
眉を下げながら、ゆっくりとそう言う。
思っていたよりも、ヒロは緊張していなかった。
むしろ、わだかまりが消えるように、
紐の結び目が、解けていくように。
な、なんで知っているのだ、自分の心を。
未桜にも、サキにも言えなかったその心を。
何故涙が出そうなのかは分からない、
けどその涙は、彼の前で流してはいけない。
きっと、流したいのは、ヒロの方だから。
ぐっと堪えて、答えた。
敢えて冷たく引き離したが、晴果は分かっていた。
今はここに居ないで、という気持ちを汲み取って、一粒の涙を拭って、走った。
居なくなってから、溢れ出す思い。
その思いは透明で、膝へとぽたぽたと落ちていった。
綺麗な、透明で、辛くない、痛くない、
紛れもない、恋だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。