静かな夜に、晴果はそう笑った。
少し風が吹いて、晴果はハッと気付き焦り始めた。
自分の部屋に入ってドアが閉まり、ベッドにダイブする。
恋をした。
疎いはずだった。
こんな感情、家を出たときに一緒に置いてきたはずだったのに。
半ば家出のごとく音楽家の実家から飛び出して、
騒がしい都会へ逃げた。
あんな綺麗に並んだ音楽より、
こっちの雑音の方がよほど美しく聴こえた。
僕には、合っている。
親に愛されなくなって、
その愛が愛ではなくて、偽善の期待だったことに気付いてから、
愛だとか恋だとか、
下らないと思っていた。
だけど、隣人は違った。
あの日終わったと思った僕に手を差しのべて、
寒がりの僕でも暖かすぎるその優しさは、
火傷のように心が焼けてしまった。
ずっと胸が苦しかった。
配信活動も少しずつ減っていって、
静かにただ言われたことを遂行するプログラムの仕事をずっとしていた。
考えないように、考えないように。
でも、無理だった。
あの人の隣に居たいと思ってしまった。
そんなこと言わないで。
こんな小汚ない僕に、綺麗な目を、向けないで。
もっと好きになってしまう。
今日城ヶ根さんに言われたことは、
きっとそのことなんだろう。
気を使うのは昔からしてきた。
それが癖のように、その人に愛されたいと思ってそうしてしまう。
それでは、駄目なんだ。
代田くんのように、明るければ何か違った?
いいや違う。
僕がカッコ良ければ、進んでいた?
そんなわけない。
あの人は、どんな人でも受け入れてくれる。
きっと恋愛対象になれなくたって、
たとえそうだって、
気持ちを伝えなきゃ進めない。
進めないと、思うな。
例え気持ちを答えられないと言われたって。
僕は、僕だ。
また気ままに生きればいい。
きっと凄く落ち込むだろうけど、
このまま代田くんにもし取られてしまったら、一生後悔する。
それなら気持ちを伝えてからの方がいい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。