体格は細身でも、男らしい背中、
チェックのシャツを羽織っている、
その背中をやっと見つけて、大きな声で名前を呼んだ。
奏生は弾けるように振り返ると、
思わず勢いで嘘をついたが、内心凄く焦っていた。
奏生はペットボトルを晴果に見せながら、
公園の桜並木を二人で歩く。
優しく暖かい風が二人に吹く。
鍵が壊れて、座り込む隣人、
酔いまくった友達といる隣人。
話しかけた時、
一つの物語が始まるように感じた。
この沈黙が、嫌いじゃない。
純粋に桜を見て、目を輝かせる貴方が、
物凄くいとおしく感じる。
奏生は、後ろの桜よりも、晴果を見ていた。
口に、出してみた。
思ったことを、はじめて。
それらしい言葉を。
それからまた、静かになる。
この沈黙は嫌いじゃないとか思ったけれど、
やっぱり、それどころじゃない。
言わなくては。
言わないと。
ぐっと手に力を入れる。
鼓動が早い、収まらない、それでも、
言わなきゃいけない言葉が。
晴果と奏生は、桜の下で立ち止まり、向かい合った。
双方顔は桜より赤い、
そんなことより、なにも考えられない。
ただ頭に浮かんだ言葉を口に出す。
もうきっと、止まらない。
止まれない。
照れていて何かおかしくなっているが、
ゆっくり呼吸をして、
言いたい事をゆっくり話していく。
すると奏生はしゃがみこむ。
まさかそちらから言われると思っていなかった言葉に立ち上がり、勢いで肩を触る。
返事は、とびっきりの笑顔だった。
桜が吹雪く、散っていく。
誰かを笑顔にするのが仕事の人だっている。
その笑顔を見れなくても、仕事をして誰かが幸せになってくれればいい人も。
或いは、料理で人を笑顔にする人もいる。
どんな方法であれ、本当の笑顔になったぶん、
人は幸せになったり、成長できる。
今回は、ある女性が、料理を通して、
人を幸せにする話だった。
_______『Make your smile!』END
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。