第2話

1話
289
2021/07/25 13:29
春田さん
春田さん
す、好きですッ…!
3階角の、誰もいなくなった教室。
静寂を打ち破るように、震えた、か細い声が響いた。
目の前にいる華奢な少女が、顔を真っ赤に染めながらこちらを見る。
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
ッ…俺の、どこを好きになってくれたの?
今まで何人にも聞いてきた質問をする。
春田さん
春田さん
あ、えっと…!
運動も勉強もできるところと、あと誰とでも仲良しなところと、格好いいところ…だよ…!
なるほどね…
やっぱり、か…
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
ごめん、俺、春田さんとは付き合えない。
こんな俺に告白してくれて、ありがとう。
春田さん
春田さん
ッ…は、はい。
こ、こちらこそ、話を聞いてくれてありがとう。
瞳を少し濡らした彼女に背を向け、俺は足早に教室を出た。
彼女も、俺の内面までは、好きになってはくれなかったなあ…
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
かいちゃん!
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
ああ、煌汰。待っててくれたのか。
2階と1階を繋ぐ階段の踊り場で、俺の幼馴染みで親友の煌汰が待っていた。
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
なに?またフっちゃったの?
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
んん…まあ…な。
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
あれか、内面を好きになってもらえなかったか。
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
そんなとこ。
俺はそう、内面を好きになってくれた人としか付き合わないって決めてるんだ。
それはまあ幼少期のトラウマ?っつーか、それのせいかな…。

俺は小学生のとき、自分で言うのもなんだけどかなりのマセガキで、学年で一番かわいい子に告白されたから付き合っていた。
何となくうまく行ってたとは思ってたんだけど、ある日突然、フラれた。
『櫂翔君ってそんな人だと思わなかった』って。
正直、は?ってかんじだったね。
そっちが勝手に告白してきといて内面を理由にしてフるとか。
所詮女なんて俺の顔しか、表面しか見てないんだから。

好きな人ねえ…
煌汰のことは離したくないっていうか、ずっと一緒にいたいって思うんだけど、ねえ?
まあ、察してよ。
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
そういやさ、煌汰って好きな人いんの?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
ん~?気になっちゃう?
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
いや、今まで聞いたことなかったな~と思って
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
そうか~
気になっちゃうか~
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
いや、だ~か~ら~
中園遥稀(なかぞのはるき)
中園遥稀(なかぞのはるき)
だから?
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
お前いつの間に来たん
帰れや
中園遥稀(なかぞのはるき)
中園遥稀(なかぞのはるき)
か、カイ、ひどいっ!笑
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
かいちゃ~ん?だめだよ?はるっちにそんなこと言ったら~。
◯すよ?
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
会話がカオスなんだよ!
いいから遥稀かえれ!帰宅!ハウス!
中園遥稀(なかぞのはるき)
中園遥稀(なかぞのはるき)
へいへ~い
…うっわ俺、やべ、あと15分で約束の時間だ!
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
誰との?
中園遥稀(なかぞのはるき)
中園遥稀(なかぞのはるき)
ごしゅ…友達!
ごめん帰るわ!
…ごしゅ?
ごしゅってなんだ…
五種?ごしゅ…ご主人様…?
まさかなwあいつはどちらかと言うとSだろw
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
かいちゃん、で?
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
ああ、好きな人、いる?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
いるよ~~
もうね、9年も片想いしてるの
きゅ、9年って…相当な時間だよな…
小1から今までってことか?
煌汰ってそんなに一途だったのか…
なんか…
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
意外、だな
一途なんて
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
な、失礼な!
僕めっちゃ一途なんだよ?!愛が重いんだよ?!
煌汰がドヤ顔で言う。
愛が重いのはドヤっていいことなのか…?
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
へ~
てことは小学校同じ奴ってことだよな?
当たり前だけど
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
そうだよ~
毎日その人の事目で追っちゃうんだよね
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
ふ~ん
同じ学校なんだ
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
なんで知ってッ…!
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
煌汰今言ったやん
で、だれなの?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
ん~、ヒントとして、格好いい人、かな~。
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
え、格好いい女子?…だれ?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
かいちゃんなに言ってんの~
男子に決まってんじゃん!
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
…っは?
お前、男子が好きなの?ゲイってこと?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
あ…!!!
煌汰が露骨にあせる。
今更過ぎるけど。
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
もういいや!
ゲイじゃなくてバイ!バイセクシャル!
幼稚園の頃は女の子が好きだったんだよ
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
そうなのか
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
そ!
でね、一目惚れなの。
そっから内面も知って、もっと好きになった。
独り占めしたいけど我慢中なの。
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
え、だれだろ…
遥稀か?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
ちがうよ~
はるっち確かに格好いいけどね
だれだろ…と考えながら下駄箱で靴をはく。
歩道を歩き始めたところで煌汰が口を開いた。
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
じゃーあ、幼馴染みのよしみで教えちゃお!
煌汰が縁石にのぼる。
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
勿体ぶるなよ
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
ん~?いいでしょ?かいちゃんこういうの好きじゃん
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
好きじゃない!
で、誰?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
それはね
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
_______。
煌汰が口を開いたとたん、タイミングを見計らっていたかのようにトラックが通りすぎる。
轟音が鼓膜を打ち、煌汰の細く柔らかい声は聞こえなくなる。
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
佐々倉櫂翔(ささくら かいと)
え?なんて?
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
湯嵜煌汰(ゆざき こうた)
今言ったもん~
もういわな~い
煌汰がいたずらっぽく笑った。

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