第89話

5,362
2021/07/31 05:28
五条(なまえ)
五条あなた
…バカみたいでしょ?
でも、そう考えたら抜け出せなくなって。
でも、私もこの2週間で兄さんの存在がどれだけ大きいか分かったの。
一人じゃ何も出来なくて、心も体もボロボロになっちゃって、どうしていいか分からなくなって。
五条(なまえ)
五条あなた
私は、私は兄さんの傍にいたい。捨てられたくない見放されたくない。差し出してくれたあの手を振り払ってしまったことを、ずっと後悔してた。
『あなた!、あなた!』
『まだ出来てないよ?もっと行けるでしょ?』
『あっ、みてみてあなた!これとっても美味しそう!一緒に食べよ!』
目を閉じて頭の中によみがえるのは、私の隣で煩いくらいに明るく話しかけてくる兄さんの姿。そう、いつも笑顔の。日常生活のなかだけじゃない。授業中だって仕事の時だってそうだ。でも私が見た最後の表情は…怒り。悲しみ。驚き。私が覚えてる顔は笑顔ではなかった。あの笑顔を壊したのは誰か。紛れもない、私自身で。
…私このまま逃げても良いのかな?きっとこのまま戻っても、このすれ違った関係じゃ私たち自身にとって良くはない。分かってるの。怖い怖いって過去に囚われてても意味はないことくらい。前に進むしかないってことも。つい今しがた、五条あなたという存在に胸を張りたいって思ったじゃないか。あの時差しのべてくれた手を振り払ったことを後悔してるんじゃないんすか。それなら…
五条(なまえ)
五条あなた
兄さんの隣で堂々と生きて行きたい…!
兄さんの隣で堂々と笑っていたい…!
そうするために…!
五条(なまえ)
五条あなた
努力するから…!もう二度と『要らない』なんて言われる事のないくらい…強くなるから…!
兄さんの隣に立てるくらい…頑張るから…!
だから…!
五条(なまえ)
五条あなた
兄さんの側にいさせて欲しい…!
私のことを嫌ってもいいから…!
兄さん達ともっと一緒にいたい!
だから…私を…
ここから出して!私を…助けて!
この…何もない暗闇から…私を出して!
お願いだから!
こんなところで…
五条(なまえ)
五条あなた
死にたくない…!ポロポロ
ギュッ
五条(なまえ)
五条あなた
!?
五条悟
五条悟
五条(なまえ)
五条あなた
兄…さん…?
五条悟
五条悟
…ッ ポタポタ
肩にポタポタと落ちてくる“何か“。
それは兄さんの…
五条(なまえ)
五条あなた
(涙…)
涙だとすぐに分かった。
五条悟
五条悟
ごめんね…
僕は…ずっと…あなたを苦しめ続けてたんだ。ごめんで償える物じゃないことくらい分かってる。けど、謝らせて欲しい。
自分の思いから逃げ続けてた分、その分だけでも謝らせて。
五条(なまえ)
五条あなた
…兄さんのせいじゃないよ。
もう…大丈夫だから。
伝わった......。私の心臓を締め付けていた鎖が少し緩んだ気がした。それもつかの間に、ふっと柔らかな雰囲気を纏っていた兄さんが、再び真剣な表情に変わった。キッと空気が張りつめ、心臓が煩く脈打ち出す。
五条悟
五条悟
…あなたの気持ちはちゃんと伝わったよ。
僕はあなたの…その言葉を聞けただけで十分嬉しかったから。
あなた自身から『僕と一緒に隣に並び立っていたい』と言ってくれた。それは僕が願うことでもあり、あなたも同じように思ってくれている。その事実だけで十分に嬉しいから。あなたが覚悟を決めて告げてくれた言葉と気持ちに、僕もそれ相応の気持ちで応える。伝えたかった想いを。
何を言われるのかと緊張しながら言葉を待った時間はおそらく数秒だ。でも今の私には数秒どころではなく長く感じられた。緊張で体を固くしていた私の前に、スッと兄さんの手が差し出された。窓から差し込んだ夕日が兄さんの手をあたたかく照らしている。そして、兄さんが口を開いた。
五条悟
五条悟
あなた。これからも
家族として仲間として
「相棒」として
もう一度
僕の隣を歩いてくれませんか。
五条(なまえ)
五条あなた
!?
部屋の外や回りの雑音なんかがスッと消えた静かな空間で、その言葉だけがはっきりと聞こえた。改めて言われたその言葉の意味を理解するのに少し時間を要して、しばらく時が止まったかのように動けなかった。そんな私に向けて差し出された兄さんの手を見て、言葉の意味をゆっくりと理解した私は兄さんのその手に、自分の手を重ねた。数日前のあのときとは違って差し出された手は何も怖くなんかなくて、溢れてくる涙と握った手だけが私の気持ちの全てを表していた。
何もなかった暗闇の中の世界から今

































































































一筋の光が差し込んだ。

プリ小説オーディオドラマ