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今日は、新しい振り付けの打ち合わせだった。
シンメのカレは、オレが認めるダンスの天才だ。
みんながカレをエモいって言うとおり、腕や身体の動きがほんとにきれい。
でも1番特徴的なのは、首から肩にかけて、いわゆるネックラインで、頭を斜め前に倒して視線を寄越す表現が、何とも色っぽい。
そして足さばきが華麗。
練習中は集中してたから、問題はなかった。
終わってから、汗の処理して、シャツを着替えて。
帰り、水分補給しながら、問題点を話し合う。
んだけど、どうしても言いたくなった。
「なあ」
「なんですか?」
「アイツに変なこと教えんの、やめてくれる?」
にたり、って笑うから、元凶はコイツだって確信した。
「えー、何のことだろ?
僕なんか言ったっけ、覚え、ないなぁ」
「言っただろ!
ゴムだの、外出しだの!」
「声大きいですよ」
いけね、つい興奮した。
あわてて、声をひそめる。
「そおゆうことは、もう言わないでくれる?
オレら、ちゃんと仲良くやってんだから、余計なことでケンカしたくないんだよっ」
じっとオレを見てから、しれっと、
「たかが外出しされたぐらいで怒るなんてサイテー。
かっわいそーなキラキラ」
「なっ?
……なんでわかんの?」
んべって舌を出された。
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かたや、ボーカルラインのふたり。
ダンスの遅れでグループの足を引っ張らないように、今日もふたりで練習していた。
ちょうど近くにある、安い貸しスタジオ。
1時間千円。
始めと終わりに、丁寧なストレッチを欠かさない。
屈伸や、前屈、後屈、ふたりで協力して筋を伸ばしていく。
何気なくこの前の話題に触れた。
「ところで、あれ、どした?
うまくいったんか?」
「あー、うまくいったんだけど、怒られちゃって」
「え、なんで?」
「勝手に離れんなって。
終わってもそのままくっついてたいんだって」
「えー?
処理してからまたくっつけばいいやんなぁ?」
脚を開いて身体を横に倒して脇をゆっくり伸ばす。
「わがままやなぁ?
こっちは汚すの申し訳ないって思てんのに、なぁ?」
「片時も離れたくないって言われちゃ、しょうがないでしょ」
「えー、そんなかわええ事言うんや?
こっちは、何も言わず急に機嫌悪うなるから、ご機嫌取るの大変や」
「どうやってご機嫌取るの?」
「まあ、だいたいなんか食べさすか、あとはキスやな。
最近、キスすると機嫌が直るってわかってん」
「俺はー、どうしてんだろ?
あんま怒られた事ないかも。
だから余計この前はビックリしちゃって」
ふたりで目を合わせて笑う。
「ボクら、苦労すんなぁ」
「お互い、惚れた弱味ですねっ」
妙な連帯が生まれていた。
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この「購入注意」シリーズは、読者様の感想文を元に書きました。
4人を愛して、ステキなインスピレーションをくださって、本当に感謝しています。
感想文は読者様のサイトで公開されておりますので、よろしければ是非ご覧になってください。
とっても楽しくてオススメです。
Special Thanks to みるてぃ様
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!