第10話

先生のバカ……
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2022/01/30 01:00

先生からの告白……。
でも、それはかおりに向けて。

先生に私を好きになってほしい。応援したい。
そう思って頑張ってきたけど、
いざ、本当に思いが通じると
どうしていいかわからなくなってしまった。

もしかして、先生を振らなきゃいけないの……?
先生を悲しませることをしなきゃならないの?
嘘をついてる上に、悲しませるなんて、
私、最悪だよ……。
彩香
彩香
(こんなの先生を
応援してることにならないじゃん……)
そう思うと、虚しい気持ちになる。
女神さま
女神さま
アンタ、ここで諦めるつもりなの?
彩香
彩香
だって、私はかおりじゃないもん……。
嘘つきな最低の高校生・彩香だもん……
女神さま
女神さま
別にぃ?アタシ、美人でぇ優しいぃ女神さまだからぁ?
このままずーっと大人の姿のままにする魔法も?
使えますけどぉ?
彩香
彩香
……えっ
女神さまは得意気な笑顔で私に詰め寄ってくる。

このままずっと大人の姿なら、先生のそばにいられる……。
けど……。
彩香
彩香
……私は?高校生の私はどうなるの?
女神さま
女神さま
いなくなるわよ、当然。
家族も友達も、もちろん先生も。
高校生のアンタのことはキレイさっぱり忘れちゃうわ
彩香
彩香
忘れちゃう……
先生のそばにいたい。
でも、私には家族だって友達だって
チアの仲間だって、みんな大切だし……。
彩香
彩香
……先生をこれ以上騙すことなんてできない。
もう先生を悲しませるようなことはしたくない。
それに……
女神さま
女神さま
それに?
彩香
彩香
私が好きになったのは、高校生でも、数学が出来なくても、
夢が無くても、バカでも、こんな……こんな私でも
優しく寄り添って応援してくれる先生だから!
先生には、今の、ありのままの私を好きになってほしいから!
女神さまは必死で訴える私を見て、
優しく微笑んでくれる。
女神さま
女神さま
アタシね、思うの。
先生は見かけで人を好きになるかしらって
彩香
彩香
……先生は……ううん。
きっと外見だけで人を好きになるような人じゃない
女神さま
女神さま
でしょ?だからね、
もう見た目とか年齢とか関係ないんじゃないの?
彩香
彩香
……それは……また別だよ……
女神さま
女神さま
……一つだけヒントをあげる♡
アナタはもう立派な大人のレディよ♡
女神さまはそう言って、
キラキラした光の中に消えていった――。

私が……レディ?大人の?
そっか……。嬉しいなぁ。
でも……。
彩香
彩香
やっぱり、高校生じゃムリだよ……
ベッドに入って目をつむる。

その日の夜見た夢は、制服姿の私と先生が
手を繋いでスーパーに行く夢だった。
とろけるような甘い思い出に、
高校生の自分を重ねている。
実現できないなら、せめて夢の中では
許してください、女神さま――。


次の日――。
黒月先生
黒月先生
……おはよう、花芳
わあ!朝イチで先生!

先生の声を聞いたら、
昨日の告白を思い出してしまった。
きゅーんとする心臓。そして熱くなる全身。

わああああああああ!
顔見れないよ……。
彩香
彩香
お、おおおおおはようございますッ!
私は先生と目を合わせないように、
ぎゅっと目をつむって走る。

また逃げちゃった……。
彩香
彩香
(思い出しドキドキのせいで、
おどおどしちゃうよぉ……)
あ……でも……。
私にドキドキする資格なんかないんだった。
噓つきで最低な高校生の私じゃダメなんだった。

いい夢を見たせいで忘れてたなあ。
バカだなぁ……。

先生を見かけるたびに、飛びあがる心臓と
こみあげる涙を必死に抑えつけていたせいで、
今日一日、先生と目を合わせることすらできなかった。


――キーンコーンカーンコーン。
放課後のチャイムが鳴る。
彩香
彩香
……あ、また一人だ……。
先生に見つからないうちに早く帰ろ……
鞄を持って教室を出ようとしたら――。


どん!
彩香
彩香
きゃッ!
黒月先生
黒月先生
……っ!すまん!って花芳か
彩香
彩香
……私じゃダメでしたか?もー
よりにもよって黒月先生にぶつかるなんて……。
私、ちゃんと笑顔できてるかな……。
黒月先生
黒月先生
いや、おまえで良かった
先生はいつも通りの爽やか笑顔。

ああもう!人の気も知らないでぇ!
先生のバカ!バカバカ!!!
心臓うるさいしー!涙ひっこめー!
黒月先生
黒月先生
今日の花芳、様子がおかしかったからさ。
なんか悩みごとでもあるんじゃないかって思って
彩香
彩香
……無い!です!
わっ!大きい声出ちゃった!

そんな心配、今はしてくれなくていいの!
先生のことで悩んでるなんて言えないんだから……。

教室の入り口に立つ先生の横を抜けて、
逃げようとしたのに――。
黒月先生
黒月先生
だーめ。今回は逃がさないから
私の目の前を先生の腕が遮る。
教室の入り口は先生のたくましい腕で
塞がれてしまった。

バカバカ!先生のバカ!
きゅんとさせないでって!もおおおお!
黒月先生
黒月先生
一人で辛くなるなって言ってるだろ?
おまえはいつも一人で頑張りすぎ
彩香
彩香
……先生……
ダメ!きゅんとしちゃダメ!
きゅんきゅんしちゃダメなのにぃ!
黒月先生
黒月先生
俺じゃダメか?話せないこと?
ダメなわけない!先生がいい!
先生に今すぐ相談したいよ……。
でも……。
話せるわけ……無いじゃん。
あふれそうな涙。唇を噛んで必死にこらえて、
私は笑顔を作った。
彩香
彩香
ありがとうございます。
今日、本当は少し具合が悪かったんです。
寝たら治ると思います
泣きそうなのバレてないかな……。
ちゃんと笑えてるかな……。
黒月先生
黒月先生
そう……か。……わかった。
ムリはすんなよ
先生は私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
バレちゃったかな。泣きそうなの。
黒月先生
黒月先生
そういえばさ……。
親戚のお姉さん、どうしてる?
彩香
彩香
……え?
黒月先生
黒月先生
……あ、いや。なんでもない。
忘れてくれ。気を付けて帰るんだぞ、花芳
先生はそう言って、職員室の方に歩いていった。

そう……だよね。
告白の返事、気になるよね……。

わああああああん。
どうしよう!
どうしようどうしようどうしよう。
最悪最悪最悪。最悪!

もうムリだよ。限界だよ。
私、これ以上先生に嘘なんてつけない。
こんな気持ちになるくらいなら、
先生のこと好きになるんじゃなかった……。

私はあふれる涙を止めることなく、
泣きながら家に帰った。

この涙と一緒に先生への気持ちも
消えてしまったら楽なのに。
それなのに。
どうしてこんなに、好きな気持ちがあふれてきちゃうの……?

先生、私、こんなに辛くて苦しいのに、
先生のこと世界で一番大好きだよ……。


  ☆彡   ★彡   ☆彡


――それから一週間。


流れるように日々が過ぎていった。
先生の前では、笑顔で元気たっぷりの
彩香でいられるように。
私なりに頑張った。


そして、日曜日。
彩香
彩香
……よし
魔法の香水をシュッと振りかける。
シトラスのいい香り。
上品で知的な大人の女性の香り。
女神さま
女神さま
……本当にいいの?
彩香
彩香
……はい。これが最後の変身です
女神さま
女神さま
残念だわ~。毎回コーディネート
考えるの楽しかったのにぃ
彩香
彩香
ありがとう女神さま。
私を大人のレディに仕上げてくれて
女神さま
女神さま
何も最後ってわけじゃないんだから。
いいのよ、いつでも呼んでくれて。
香水はまだ残ってるんだから
微笑んでくれる女神さまに、
私も微笑み返した。
彩香
彩香
行ってきます!
今日でかおりが先生の家に行くのは最後。
鍵を返したら、もう二度と先生の前に姿は現さないの。
先生を悲しませてしまうのは辛いけど、
これからずーっと騙してしまう方がもっと辛くなる。

Go!Fight!Win!彩香!
泣かないで、先生にお別れを……。
お別れを伝えるんだ……。


――ピンポーン。


中からバタバタと音がして、
勢いよく先生の部屋の扉が開いた。
黒月先生
黒月先生
……来てくれたんだ
扉が閉まると二人きりの世界。
うううう。
いざ、先生を目の前にすると
緊張しちゃうなあ。
黒月先生
黒月先生
どうぞ、中に入ってください
先生は玄関先で立ったままの私を、
部屋の中へと招いてくれる。
先生ごめんね。
優しくしてくれてありがとう。
かおり
かおり
……き、今日はここで……。
これを返しに来ただけなので……
先生に鍵を渡す。
黒月先生
黒月先生
…………
先生……。そんな悲しい顔させてごめんね。
かおり
かおり
私、家政婦辞めることにしたんです。
だから、先生の家に来るのもこれが最後です
ああ。どうしよう。
やっぱり泣いちゃいそうだよ……。
かおり
かおり
先生、今までありがとうございました。
……好きって言ってもらえて嬉しかったです。
でも……さようなら
私はそう言って玄関の扉を開けようと、
先生に背を向けてドアノブに手をかける。

すると、先生の手が重なり、
扉を開こうとする私を止めた。

ピッタリとくっついた先生。
お皿を取ろうとした時と同じ。


――どくんどくん。


私と先生の鼓動が重なる。
黒月先生
黒月先生
俺が告白したせいですか
私の耳に吐息がかかるくらい近くで、先生はつぶやく。
先生の声はいつもと同じ、低くて落ち着いた声なのに、
どこか切なく響いた。
かおり
かおり
……そうじゃ……ない……けど……
黒月先生
黒月先生
俺はあなたの一生懸命な姿、
俺の本当の姿を見てくれようとするところを
好きになったんです
先生……。
私の内面、見てくれてたんだね。
嬉しい……。嬉しいのに……。
黒月先生
黒月先生
……俺は……あなたがどんな人でも受け止めたい。
あなたの心は本物だと思うから
どうしよう。我慢できない……。
涙が流れちゃう……。
先生のせいだよ。
私をドキドキさせるのが、悪いんだよ……。
かおり
かおり
……もう、行かないと……
重なった先生の手に力が入る。
黒月先生
黒月先生
俺には本当のことを教えてくれませんか。
俺はかおりさんのことがもっと知りたい
……!!!
やっぱり先生、何か気づいているの!?
私の本当の姿、知ってるの……?

でも……。
やっぱり、本当のこと、聞けない。
このまま、綺麗に別れたい。
そしたら、明日から元の生活に戻るだけなんだから……。
かおり
かおり
……本当はとても嬉しいです。
でも……でも、どうしてもダメなんです……!
私は玄関を思い切り開けて、
先生の家を飛び出そうとしたのに――。
黒月先生
黒月先生
待って……。逃げないで……
先生の腕の中に捕まってしまった。
後ろからぎゅっと抱きしめてくる先生の腕は
力強くて、熱くて。

このまま先生の腕の中で、幸せに暮らしたい。
私はそんなことを願ってしまった。
叶わないってわかってるのに。
かおり
かおり
……ごめんなさい……!
もう捕まらないように。幸せなんて願わないように。
私は力いっぱい先生の腕を振りほどいた。


すると、



――ガシャン。


かおり
かおり
……う……そ……
足元を見ると――。



……香水の瓶が……割れてる……!
嘘……!嘘嘘嘘!


私、どうなっちゃうの……!?!?










☆彡

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