夢って、どうやって見つけるんだろう。
去年までは大人になってもずーっと
チアで誰かを応援したいって思ってたのに。
今じゃ、「花芳彩香の夢」なんて欠片も見当たらない。
あの日――。
土曜日のチアの練習。
気づいたら顧問の黒月先生にしがみついて泣いてた。
そのまま病院まで行った。
靱帯断裂とともに私のチアリーダーの夢も絶たれた。
退院してからも、何もする気になれないし、笑うこともできなくて。
学校にも行けなくなっちゃった。
先生は私を心配して何度も家に来てくれたけど、
どんな顔をして会えばいいかわからなかった。
先生に会おうって思えた時には、もう何か月も経っていた。
でも、ただ泣くしかなくて。
先生の笑顔に勇気をもらって声を絞り出した。
先生は、思わず泣いてしまった私に、
ハンカチを渡してくれた。
ふんわり優しい香りが、私を落ち着かせてくれる。
先生のちょっと低くて優しい声が、部屋に響く。
――この日から、私、花芳彩香は
私を救ってくれた黒月薫先生に
恋の魔法をかけられてしまったのです。
黒月先生についていけば大丈夫。
そう思ったら、どんなことも乗り越えられる気がした。
☆彡 ★彡 ☆彡
高身長の抜群のスタイルを強調する細身のスーツ。
ベストを着てると、よけい王子様みたいに見えるのは私だけ?
黒髪もつやつやで、涼し気な目元からはキラキラが出てる気がする。
私を軽々持ち上げて病院に運んでくれたのは
まさに王子様って感じだったな。
先生を見てるとあの時のこと、思い出しちゃって……。
数学の授業なんて、耳に入ってきません!
黒月先生かっこよすぎるんだもん!
無理!
ん……?
んんんんんん????
友達のみなみから思わぬアシストが入る。
ナイス、みなみ!
絶対に……無い……。絶対に……。
気づいたら授業は終わっていて、
私の頭の中には公式の一つも残っていなかった。
先生はファンの女の子たちに囲まれている。
黒月先生はファンクラブが存在するくらいの人気者。
数学の質問なら、先生はどんなに忙しくても丁寧に優しく教えてくれる。
いつも先生の周りには、質問待ちの女の子がたくさん。
だけど、高校生は所詮ファンどまりってことか……。
そういって、みなみは教室を去っていった。
もらった香水を片手に、ふらふら歩いていると、
いつもの場所にたどり着いていた。
中庭の端。生垣に囲まれた、滅多に人のこない資料室の窓の真下。
泣きたくなったら、ここに来る。
ここ以外では泣かない。そう決めたから。
勝手に涙があふれてくる。でもでも。
誰も来ない場所のはずなのに……!?
気づいたら隣に金髪ロングでメイクばっちり、
キラキラピンクドレスのお姉さんが立っていた。
先生に「強くなる」って言ってから
初めて人の前で泣いちゃった。
もう涙が止まらない。
☆彡
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。