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第1話

先生、高校生じゃダメですか?
9,094
2021/12/13 05:27


夢って、どうやって見つけるんだろう。
去年までは大人になってもずーっと
チアで誰かを応援したいって思ってたのに。
今じゃ、「花芳彩香はなよしさいかの夢」なんて欠片も見当たらない。

あの日――。
彩香
彩香
先生!助けて……!痛い!先生……!
黒月先生
黒月先生
大丈夫だ。俺がずっとそばにいるから。
足のことは考えるな!俺のことだけ考えてろ!
土曜日のチアの練習。
気づいたら顧問の黒月くろつき先生にしがみついて泣いてた。
そのまま病院まで行った。
彩香
彩香
(もうチアができる足じゃなくなっちゃったんだ……)
靱帯断裂とともに私のチアリーダーの夢も絶たれた。

退院してからも、何もする気になれないし、笑うこともできなくて。
学校にも行けなくなっちゃった。

先生は私を心配して何度も家に来てくれたけど、
どんな顔をして会えばいいかわからなかった。
彩香
彩香
……先生、私、もうチアできないんだって。
誰も応援できないんだって……
先生に会おうって思えた時には、もう何か月も経っていた。
でも、ただ泣くしかなくて。
黒月先生
黒月先生
俺は心から花芳が笑って、
頑張れって言ってくれたら力が出るよ
彩香
彩香
私には……もう無理です……
黒月先生
黒月先生
大丈夫。ほら、言ってみて
先生の笑顔に勇気をもらって声を絞り出した。
彩香
彩香
……先生……先生、頑張って
黒月先生
黒月先生
そう、よくできました
先生は、思わず泣いてしまった私に、
ハンカチを渡してくれた。
ふんわり優しい香りが、私を落ち着かせてくれる。
彩香
彩香
……Go、Fight、Thank you、黒月先生
黒月先生
黒月先生
あれ?Go、Fight、Win、じゃなかった?
でも、Thank youもいいな。後で使ってみよう
彩香
彩香
……ダメです……先生専用の応援だから
黒月先生
黒月先生
そっか。じゃあ、それ二人だけの秘密な
先生のちょっと低くて優しい声が、部屋に響く。
黒月先生
黒月先生
人は自分にだけは魔法がかけられるんだ。
どんな魔法をかけるかは花芳次第。
素敵な魔法、かけてやれよ
彩香
彩香
……先生、私、強くなる。笑顔で応援できる強い人に
――この日から、私、花芳彩香は
私を救ってくれた黒月薫くろつきかおる先生に
恋の魔法をかけられてしまったのです。
黒月先生
黒月先生
応援の方法はチアだけじゃない。
花芳なりの応援の方法を一緒に見つけていこうな。
きっとそれが新しい夢になるはずだから
黒月先生についていけば大丈夫。
そう思ったら、どんなことも乗り越えられる気がした。


   ☆彡   ★彡   ☆彡

彩香
彩香
(先生、今日もかっこいいなあ。笑わないクールさも素敵……)
高身長の抜群のスタイルを強調する細身のスーツ。
ベストを着てると、よけい王子様みたいに見えるのは私だけ?
黒髪もつやつやで、涼し気な目元からはキラキラが出てる気がする。
黒月先生
黒月先生
……よし……
私を軽々持ち上げて病院に運んでくれたのは
まさに王子様って感じだったな。
先生を見てるとあの時のこと、思い出しちゃって……。
黒月先生
黒月先生
花芳!!!
彩香
彩香
……はひ!?
数学の授業なんて、耳に入ってきません!
黒月先生かっこよすぎるんだもん!
無理!
黒月先生
黒月先生
誕生日だからってぼーっとするなー。
まあ、とりあえず、おめでとう
彩香
彩香
え……。あ、ありがとうございます……。
17歳になりました!
彩香
彩香
(うそ……!先生、私の誕生日知ってくれてるの!?
うそ……!信じられないー!!)
黒月先生
黒月先生
17歳か、子どもだな。
ということで、ここの問題、解いてもらうぞ
ん……?
んんんんんん????
彩香
彩香
(子ども……?子どもって?え?子ども?
先生、今、子どもって言ったよね……?)
彩香
彩香
(うわーん。私、先生に子どもにしか見られてなかったのー?今さらかもしれないけど……子どもかぁ……。えぇぇぇぇーーっ。ショックなんだけど……)
みなみ
先生、でも彩香は料理めっちゃ上手なんですよ!
料理上手な彼女。最高じゃないですか?!
友達のみなみから思わぬアシストが入る。
ナイス、みなみ!
黒月先生
黒月先生
確かに最高だな。20歳過ぎたら考えてもいい
みなみ
えー?高校生はダメですか?
黒月先生
黒月先生
高校生は対象外。
彼女なら大人の女性に決まってるだろ。
高校生は絶対に無い!
彩香
彩香
(絶対に!無い!?)
絶対に……無い……。絶対に……。

気づいたら授業は終わっていて、
私の頭の中には公式の一つも残っていなかった。

先生はファンの女の子たちに囲まれている。
黒月先生はファンクラブが存在するくらいの人気者。
数学の質問なら、先生はどんなに忙しくても丁寧に優しく教えてくれる。
いつも先生の周りには、質問待ちの女の子がたくさん。

だけど、高校生は所詮ファンどまりってことか……。
みなみ
おーい彩香?授業終わったぞー?帰る時間だぞー?
彩香
彩香
えッ?あー……あはは
みなみ
彩香、誕生日でしょー?
じゃーん!プレゼントです!
彩香
彩香
香水……?
みなみ
そう!大人の女性と言えば、香水!じゃない?
しかもこれ、『恋が叶う香水』なんだって!
彩香
彩香
みなみぃ。ありがとぉ~~
みなみ
私は黒月先生への恋、応援してるから
そういって、みなみは教室を去っていった。
彩香
彩香
(……私、上手に笑えてたかな……)
もらった香水を片手に、ふらふら歩いていると、
いつもの場所にたどり着いていた。

中庭の端。生垣に囲まれた、滅多に人のこない資料室の窓の真下。
泣きたくなったら、ここに来る。
ここ以外では泣かない。そう決めたから。
彩香
彩香
先生のバカぁ~~~!
勝手に涙があふれてくる。でもでも。
彩香
彩香
……泣いてばっかりじゃ、魔法が解けちゃうよね
彩香
彩香
Go!Fight!Win!彩香……。
Go!Fight!Thank you!黒月先生……
彩香
彩香
私だって大人の女性になって
先生に近づきたいよ……
???
今のアンタには先生との恋愛なんて無理無理
彩香
彩香
(……え?!変な声、聞こえる……)
誰も来ない場所のはずなのに……!?
女神さま
女神さま
誰が変なおばさんじゃ!
彩香
彩香
おばさんなんて言ってません!
女神さま
女神さま
えー?そうだったぁ?まあ、いいわ。
アタシ、香水の女神さまよ。ヨロシク
気づいたら隣に金髪ロングでメイクばっちり、
キラキラピンクドレスのお姉さんが立っていた。
彩香
彩香
香水の女神???何それ?女神ってか、ギャルっぽい……
女神さま
女神さま
ギャルじゃないですー。女神ですー。
ったく、失礼なこと言って謝りもしないような子どもじゃ、
先生との恋なんて叶わないわよッ!
彩香
彩香
……私だって、無理だってわかってるもん……。
でも……
先生に「強くなる」って言ってから
初めて人の前で泣いちゃった。
もう涙が止まらない。
女神さま
女神さま
もう泣かないのー。
アタシが、先生の彼女になるお手伝いしてあげるから
彩香
彩香
え?
女神さま
女神さま
泣き止んだ?
彩香
彩香
今、なんて?
女神さま
女神さま
先生の彼女になるお手伝いしてあ・げ・る♡って言ったの
彩香
彩香
えーーーーーーーーーーーっ!!!






☆彡

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