無料スマホ夢小説ならプリ小説 byGMO

719
2022/01/16

第8話

先生、ホントの私じゃダメですか?
合鍵をもらって一週間。


時間が経つの、早いなあ……。
結局、答えが出ないまま。
いつもなら嬉しいはずの家に行くまでの道のり。
でも今は……正直、ちょっと複雑。

はぁ……。

今日は日曜日だけど、
チア部は外部のコーチに練習を見てもらう日だから
顧問の先生も付き添いで出かけている。

せっかく合鍵をもらったんだから、
早めに先生の家に行くと決めていた。

気持ちは落ち込んでいるけれど、
鍵を握りしめると、先生の手のぬくもりを
思い出しちゃって、ドキドキするなあ……。

先生の部屋の扉に鍵を挿す。
ガチャッと音がして、鍵が開いた。
かおり
かおり
……お、おじゃましまーす……
わあああ。開いた……。
緊張するなぁ~~~。

いつも先生がいる部屋は、しん、と静かで
なんだか別の家に来たみたい。

テーブルの上には「よろしくお願いします」と
キレイな字で書かれた、先生からの手紙が置いてあった。
かおり
かおり
お手紙……嬉しい……
嬉しいけど……。
私の心の奥はズキンと苦しい。
かおり
かおり
んー!ダメダメ!いつもの私らしくなーい!
Go!Fight!Thankyou!黒月先生!
気持ち良く先生が過ごせますよーにッ!
――って言ってみたけど……。
簡単に元気になれるわけないよね……。

はあ……。

ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、
私はお風呂場やキッチン、お家の隅々まで
一生懸命掃除していった。

お風呂場の鏡に映るかおりの姿――。
かおり
かおり
……これって私?それとも私じゃない?
うーん。わかんないよ……。
心は私。でも外見は別人。
先生の特別は、心?それとも外見?
心だったら嬉しいけど……。そんなこと聞けない。

ぐるぐる回る洗濯物を見ながら、
私の頭もぐるぐる回っていく。

もし、万が一、億が一!
心を見てくれていたとしても、外見が高校生の私だったら?
先生の特別にはなれてないよね。
やっぱり、先生のそばにいられるのって
かおりの姿になってるからだし……。
女神さま
女神さま
(ちょっと!!!!どんだけ入れるの!柔軟剤!)
かおり
かおり
きゃー!
キャップからあふれた柔軟剤が
たっぷりと洗濯槽に吸い込まれていた。
ボトルが軽い気がする……!

もう!しっかりしないと!
こんなんじゃダメ!絶対ダメ!ダメダメダメなの!
私は辛いけど……。でも、そんなの先生に関係ない!

先生に幸せになってほしいって誓ったんだから。
結ばれなくたっていい……。
応援できるだけでいいって、始めたことなんだから……。
かおり
かおり
あれ……。もうこんな時間……
時計を見ると随分時間が経っている。
無我夢中で掃除してたみたい。
もう、部活も終わるころかな……。

ソファに座って一息ついて、
先生が帰ってくるのを待とう――。
ふわっとソファに寄りかかると、
ちょっと先生の香りがする。
ふわふわとした心地。夢を見てるみたい……。
女神さま
女神さま
ちょっと。ちょっとちょっと!
何リラックスしちゃってんのッ?
彩香
彩香
え……?女神さま?
女神さま
女神さま
いかにも、お美しい女神さまよ~。
それより、アンタ。こんな生活、いつまで続けるつもりなの?
彩香
彩香
いつまでって……
そんなこと考えたことなかった……。
彩香
彩香
今のままじゃダメなの……?
私は先生のそばで、先生のことを応援できたら
それだけでいいのッ!
女神さま
女神さま
うーそ。絶対うーそ。
じゃあ、もしも先生とかおりが付き合うことになったら
アンタは満足なの?
このまま、先生を騙していくの?いつまで?
女神さまは早口で私に向かってまくし立てる。

私だってわかってる。
鍵をくれたのも、上着を貸してくれた優しさも。
全部全部、かおりに向けたものだって……。
女神さま
女神さま
そうやって手に入れた先生の気持ちはホンモノなの?
ホンモノの気持ちって……何?
私にはわかんない……。
わかんないよ……。
彩香
彩香
知らない!知らない知らない!聞きたくないッ!
私は耳を塞いで、目をぎゅっとつむって
ソファの上で縮こまった。

次から次へとあふれてくる、涙、涙、涙。
先生の家なのに、声をあげて泣いちゃった。

私だってわかってる。
本当はわかってるんだ。
でも、今、私が先生のためにできることなんて
かおりの姿で家政婦として働くことくらいしかないんだよ……。
彩香
彩香
……私だって……本当の……
姿……で……
………。



――はっ!!!
夢……????
夢かあ……なんか嫌な夢……。
私はソファで寝ちゃってたみたい。
彩香
彩香
って!戻ってる!!!!!!
真っ暗なテレビに映った私は
見慣れた高校生の姿をしていた。

先生、まだ帰ってきてないよね……?
掛けてあったブランケットを畳んで――。

ブランケット……!?!?
もしかして、先生が掛けてくれた?

嘘!?いつ!?
変身解ける前だよねッ!?

早く早く早く!!!
香水!!
女神さま
女神さま
ざーんねーん♡
まだ眠いでーす。お休み中でーす
彩香
彩香
んもう!早くしてよぉぉぉぉぉ!
女神さま
女神さま
えー。じゃーあー。
正直な気持ちを教えてくれたら、
変身させてあげよっかなぁ~
女神さまは髪の毛を指でくるくる弄んでいる。
彩香
彩香
正直な気持ちって何!?
も~~~~!早く!
女神さま
女神さま
はあ?アンタ、さっきの話もう忘れたの!?
このままでいいのかって聞いてんの!
夢……じゃなかったの!?
ホントの、正直な気持ち……。
私の先生への、正直な気持ち……。
彩香
彩香
本当は……。
ちゃんと高校生の彩香を好きになってほしい
女神さま
女神さま
はい、よくできました♡
女神さまは一瞬でかおりに変身させてくれる。
それと同時に、お風呂上りの先生が
部屋に入ってくる。
心の彩香
心の彩香
(わッ……!お風呂上り……!)
黒月先生
黒月先生
あ……えーと、
お疲れの様だったんで、起こしませんでした
かおり
かおり
ご、ごめんなさい……
……あれ?
先生、普通な感じ?
かおり
かおり
あのー、寝てる時の私、
変じゃなかったですか……?
黒月先生
黒月先生
いや……。
あ、でも――
でも!?
やっぱりバレてる!?!?
黒月先生
黒月先生
寝顔、可愛かったですよ
ね、寝顔―!?!?
そっか!わあああ!バレてるか気にしすぎて不意打ち……!
可愛かったって……!きゃー!
もお~!びっくりさせないで~~~!


でも……。
バレた方が、よかったのかな……。


正体はバレて欲しくない。
でも、「彩香」だって知ってほしい。
気持ちがぐちゃぐちゃで、苦しいよ……。
黒月先生
黒月先生
……もしかして、また体調悪いですか?
私が浮かない顔だったのかな。
先生はそう言って気遣ってくれる。
黒月先生
黒月先生
せっかくなので珈琲でも飲みましょう
かおり
かおり
あっ、私が……
黒月先生
黒月先生
いいですよ。あなたには、俺の珈琲を
飲んでほしいから
先生……。
やっぱり、かおりのこと……。
きゅんとする気持ちがあるのに、
悲しい気持ちにもなっちゃう。

先生が隣に座る。
珈琲はとてもいい香り。

先生にはバレてなさそうだし、
ほっと一安心。

そう思っていたのに――。
黒月先生
黒月先生
……家政婦さんの無料期間って
今日まででしたよね
かおり
かおり
……ええっ!?
そ、そうでしたっけ……
そういえばそんなことも言ったかも……。
でも……なんで急に……?
黒月先生
黒月先生
俺、かおりさんの料理、好きでした。
今日も丁寧に掃除してくれて。
日曜日が来るの、すごく楽しみだった
よかった……けど……。
なんで過去形なの?
かおり
かおり
……これからも……ですよね?
先生は笑顔のまま、何も答えてくれない。
代わりに、綺麗にラッピングされた
エレガントなお花のパッケージのシャンプーを渡してくれた。
かおり
かおり
……これは……?
黒月先生
黒月先生
今までのお礼です。
俺も使ってるシャンプーなんですよ。
すごくいい香りだから――
かおり
かおり
先生!これからも私、家政婦として
先生のために働いていいんですよね……!?
私は先生の言葉を遮ってしまった。
だって……。プレゼントとかお礼とかって、
今日で最後って言ってるみたいじゃん……。

しかし、現実の先生はゆっくり首を横に振っていた。
かおり
かおり
なんでですか……?
もしかして、お仕事中に寝ちゃったからですか?
それなら、本当にごめんなさい。
もうこんなことしません……!
私は現実が受け止められずに、
必死に先生に訴えた。
黒月先生
黒月先生
いや……そうではないんですが……
かおり
かおり
じゃあなんでですか?
私、何か悪いこと……?
はっ――。
もしかして……。
先生、私の本当の姿……。
見ちゃった……の……?

黒月先生は迷ったような、困ったような
渋い顔をしている。
黒月先生
黒月先生
………………
少しの間、何もしゃべらなかった先生は
何かを決めたようにため息をついた。
黒月先生
黒月先生
もう、怪我を手当てしたお礼分は働いてもらいました。
正直、毎週毎週来られると仕事の邪魔なんです
かおり
かおり
じゃ……邪魔……ですか?
先生はハッとしたような顔をした後、
唇を噛んで、大きな手で目を隠し、私の視線を遮ってしまった。
黒月先生
黒月先生
………………………………
かおり
かおり
私、そんなに先生の邪魔でしたか……?
黒月先生
黒月先生
……今日はもう帰ってください
先生はそう言って、立ち上がった。
もう取り合ってももらえない。
かおり
かおり
私……もっと……
もっと頑張ります。そう言いたかった。

でも、もし高校生の私の姿がバレていたら……?

もっと頑張ります。もっとできます。
ダメなところがあったら言ってほしい。
ちゃんと直したい。

今すぐ、先生にすがりついて、
そう言いたかった。

でも……。

バレていたら、きっとどんな言葉も
先生には伝わらない。
私が嘘をついていたんだもの。
黒月先生
黒月先生
……何回も言わせないでください
動かない私と目を合わせることなく先生はそう言って、
玄関へ続く扉を開き、私が家を出るように促している。
かおり
かおり
……私は先生を応援しています。
離れていても、ずっと……
私はそれだけを伝えて、先生の家を後にした。
これだけは嘘じゃないから。
信じて欲しい――。

あふれる涙が止まらなかった。
泣いても泣いても、涙があふれてきた。

応援の気持ちに嘘はない。
でも、先生に噓をついていたことも事実。

心が、とか、外見が、とか。
そんなこと気にしてたけど、
嘘をついてたら、心を好きになってもらえるわけないよね。

そんなの……。
先生に嫌われたって、当然……じゃん。


私、バカだなあ……。









☆彡