第4話

先生、もっと先生のこと教えてください
2,039
2021/12/19 01:00
ガチャ――。
彩香
彩香
先生!ストップ!
間一髪!
先生が少しだけ扉を開いたところで
なんとか阻止することができた。
彩香
彩香
ちょ、ちょっと濡れちゃって……。
今、服脱いでるんです
黒月先生
黒月先生
……し、失礼しました!
着替えとか大丈夫ですか?
彩香
彩香
大丈夫です……
黒月先生
黒月先生
何かあったら僕に言ってください。
無理はしないで
先生はこちらを見ないようにしながら、
いい香りのするタオルを貸してくれて、
リビングの方へと戻っていった。
女神さま
女神さま
(ねえ、濡れると変身解けちゃうって言ったでしょ。
香水はちょっとの水で落ちちゃうの。まったくもう)
突然、女神さまの声が聞こえてくる。
彩香
彩香
……言ってない!
ぜーったい言ってないー!
女神さまは渋い顔をして、
キラキラとした光の中から香水を取り出して
私に渡してくれた。

私は怒ったまま、香水をたっぷりつける。
女神さま
女神さま
怒んないでよ~。ワイン、あげるから
彩香
彩香
いーらーなーいーでーすー!
もとに戻してくださいッ!
女神さまは怠そうに魔法をかけて、
かおりの姿に戻してくれた。

それから、なんとかお風呂掃除を終えて、
夕ご飯の準備もして。
かおり
かおり
先生、また来てもいいですか?
黒月先生
黒月先生
正直に言うと――
かおり
かおり
(……ダメ、だったかな……)
ぎゅっと目を閉じて先生の言葉を待つ。
黒月先生
黒月先生
かおりさんの料理、とても美味しかったです。
……これからもお願いしていいですか?
かおり
かおり
……!!はい!もちろんです!
心の彩香
心の彩香
(……先生、好き!!!!)
黒月先生
黒月先生
手料理って、
こんなに幸せな気持ちになるんですね
そう言って笑う先生の顔は
学校では見たことのないくらい
リラックスした笑顔だった。

今度こそ転ばないように、
女神さまにスニーカーを履かせてもらって
ルンルン気分で、家に帰る。
まだ誰も帰ってきていないみたい。セーフ!

洗面所で香水を洗い流して高校生の姿に戻った頃には、
どっと疲れてしまっていた。

自分の部屋に戻り、
ベッドに座って挫いた足を少し動かしてみる。
うん、大丈夫。明日は普通に動かせそうだな。
これも先生の手当のおかげ……。

……きゃー!
思い出しただけでドキドキしちゃうッ!

お姫様抱っこや手当をしてくれた先生を思い出して
顔が急に熱くなってしまった。
女神さま
女神さま
意外とうまくやったわね~。やるじゃーん?
彩香
彩香
でも、バレない自信ありませんよぉ
女神さま
女神さま
じゃあ、止めちゃえばぁ~?
あたし、別にどっちでもいいし~
もしこのまま、もとの生活に戻ったら。
私は生徒のままで、先生は私のことなんて好きになってくれない……。

それに……。
彩香
彩香
私、先生に恩返しするって決めたんです。
好きになってもらえなくても、私は先生の役に立ちたい
好きになってもらえなくても。
そんなことを自分で言って、
なんだか泣けてきちゃった。
女神さま
女神さま
ねえ、なんで泣いてんのよ、もお~。
これからじゃないの!
彩香
彩香
なにがごれがらなんでずが~
女神さま
女神さま
先生のこと、もっともっと知るチャンスでしょ!
アンタ、テンパってなんもできなそーだから、
質問でもまとめておきな!
そういって、女神さまは私の涙を拭いてくれた。
なんだかんだ優しい女神さま。だから泣いちゃうのかも。

私は早速、ノートを開く。
せっかくだから名前つけよう。
今日、大人になった私を助けてくれた先生を思い出す。
彩香
彩香
先生、王子様みたいだったな……
そうだ!
「シンデレラノート」にしよう。♡もつけちゃえ。
名前が決まると、急にノートにも愛着がわく。

真っ白な1ページ目に思いついた質問を書いていく。
彩香
彩香
好きな料理は聞かなきゃダメだよね。行きたい場所とか。
お菓子とかも作ってあげたいから、好きなの聞いとこ
ふんふん鼻歌を歌いながら、次々と質問をメモしていく。
ふと、「好きなタイプは?」という質問を書いて、手が止まった。
彩香
彩香
……そっか、これはもう答え、
分かってるもんね……
Aの欄に、「大人の女性。私以外」と書くと
つい、ため息をついてしまった。

でも、こんなところで挫けちゃダメ!
先生のことを一つでも多く知れば、今日よりもっと
喜ばせてあげられるはずだから。

最後のページに
「黒月先生が幸せになれますように」と
書いたころには、朝になっていた。

……って頑張ろうと思ってたんだけど……。








――キーンコーンカーンコーン。
放課後のチャイム……。
黒月先生
黒月先生
花芳、おまえ、もしかして自分が数学苦手だって
気づいてない……?
進路相談室に呼ばれて行ってみたら、コレ。
目の前には0点の数学のテスト。
先生は真剣な目で、私の数学力を疑っている。
彩香
彩香
意地悪言わないでください!
すみませんでしたッ!
先生と二人きりでちょっとドキドキしてたっていうのに。
彩香
彩香
私も頑張ってるんです!
ドーン!と効果音がしそうなくらい勢いよく
数学のノートを取り出して先生に見せた。
黒月先生
黒月先生
ふーん。シンデレラノート、ねえ
彩香
彩香
……!?あ、これはちがくて……!
黒月先生
黒月先生
好きな料理は?行きたい場所……。
おお、100個も質問が書いてある。
頑張ってるなあ、花芳?
きゃー!きゃー!!!!!
読まないでー!!!!!

先生からノートを取り返そうとして飛びついたが、
高身長の先生は立ち上がって、
ひょいとノートを取り上げる。
意地悪でクールな笑いも素敵で、もう悔しい!
黒月先生
黒月先生
花芳、これは没収だ。こんなもん作ってないで
ちゃんと勉強しろ。将来どうすんだ?
彩香
彩香
……先生のお嫁さんになりますッ!
黒月先生
黒月先生
バーカ。真面目に考えろって言ってんの
軽いデコピンが飛んでくる。
彩香
彩香
……チア以外の夢なんて、簡単に見つからないよ
私だってチアがあったらもっと
ちゃんと頑張ってたのかもしれない。
でも、もう無理だから。
すぐに次、なんて、考えられないよ。
黒月先生
黒月先生
花芳の好きなものは何だ?
彩香
彩香
え……?ええと……。
メイクとか香水とか、そういうのが好き……かな?
チアの時に皆でメイクするの楽しかったし……
先生はおどおどする私を見て、優しく微笑んでくれた。
柔らかい雰囲気の先生を見ると、なんだか安心する。
黒月先生
黒月先生
……俺は……ポテトサラダ
彩香
彩香
……え?
黒月先生
黒月先生
……好きな料理。ポテトサラダだっていってんの。
かまぼこ入りなら、なお良い
彩香
彩香
……今度作ります!
黒月先生
黒月先生
学校に持ってきても食べないからな
いいもん、それでも。
新しい先生が知れたことが嬉しい。
すごく嬉しい。
黒月先生
黒月先生
親戚のお姉さんにも教えるのか?
……!?
急な質問に、心臓がキュッとなる。
黒月先生
黒月先生
昨日、会ったんだ。花芳の親戚って人に。
世間って狭いよなあ
黒月先生は感心したような、納得したような顔をしていた。

――それ、私なんです!
なーんて言えない言えない!

昨日のことを先生の口から聞くと、他人事みたいに聞こえる。
ホントは私のことなのに。変な感じ。
彩香
彩香
……ぜーったい教えません!
今度は、ははは、と高く笑う先生。
心から笑ってくれてるみたい。
私もつられて笑ってしまう。
黒月先生
黒月先生
おまえの仕事は勉強だから。
料理はかおりさんに任せておけ
あ、今。
高校生、って念を押された気がする。

高校生の私は先生に料理も作っちゃダメなの……?







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