第9話

先生、嫌いにならないでね
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2022/01/23 01:00
黒月先生
黒月先生
仕事の邪魔なんです
昨日の先生の言葉が、頭の中にずっとこだましている。
いつも優しい先生があんなこと言うなんて……。
まだ信じられないよ……。
でも、悪いのは嘘をついていた私。
女神さま
女神さま
信じられないなら、ちゃんと話しなさいよ
彩香
彩香
……でも……また邪魔って言われたら……
私は怖かった。
先生にもっと嫌われることも、
酷い言葉を投げつける先生の姿を見ることも。

それと、本当の姿を知られてしまったのか
はっきり確かめることも。
女神さま
女神さま
うじうじしてても何も変わらないの!
Go!Fight!Win!じゃないのッ!?
行って戦ってきなさいよ!
彩香
彩香
……め、女神さまぁぁぁぁぁ……
女神さま
女神さま
あああああ!いちいち泣かないでよねえ!
ほらもう!ハンカチ!
ううう……。
でも、そうだよね。
ちゃんと先生と話さないと、
本当のことはわからないよね。

Go!Fight!Win!彩香!
ステキな女性はきっと勇気を持ってるよ!
彩香
彩香
……私、先生のところ、行ってくる……!
私はシトラスの香りに包まれて、
女神さまに変身させてもらう。
かおり
かおり
頑張るぞー!
女神さま
女神さま
変身してから、そのテンションでいるの止めない……?
かおり
かおり
いいの!外見は変わっても、これが私!
応援する人は心が笑顔でなくっちゃ!
Go!Fight!Win!
頑張れ彩香!
黒月先生を信じて、ちゃんと向き合おう!

そう決めて、私は先生の家へと向かった。

緊張しながら先生の部屋に近づくと、
話し声が聞こえてくる。
部屋のドアが開いているみたい……。
???
いつになったら実家を継ぐの?
黒月先生
黒月先生
俺は今の仕事が大切なんだ。
そろそろ認めてくれないかな
???
結婚もしないでふらふらして……
黒月先生
黒月先生
結婚は関係ないだろ。
俺の人生は俺に決めさせてくれないかな。
……もう話すことはないよ、母さん
お母さん……!
そういえば、喧嘩して家を出たって
先生、前に言ってたっけ。

大きなため息をついた先生が、
私に気づいて、驚いた顔をした。
黒月先生
黒月先生
……かおりさん……
かおり
かおり
あ、あの……。すみません。
お邪魔……でしたよね……
……また、先生の邪魔しちゃった。
私、どうしてこんなにタイミングが悪いんだろう。
黒月先生のお母さん
ちょっと!結婚しないなら、
せめて、お父さんの会社に入りなさい
黒月先生のお父さんって、
もしかして社長さんなのかな?
すごいお家の人だったんだ……。
黒月先生のお母さん
まったく。教師なんて、
子どもの相手みたいな仕事は辞めてほしいわ
え……?
黒月先生
黒月先生
……母さんならきっとわかってくれるって、
俺は信じてるよ
先生は笑顔を作っているけど、なんだか苦しそう。

待って……。
先生、いいの?怒らないの?
それでいいの?
先生は、先生のお仕事、大切にしてるじゃん……!
なのにそんな言い方されて、それでいいの???
かおり
かおり
そんなことない!!!
気づいたら、私はそう叫んでいた。
黒月先生
黒月先生
かおりさん……!いいんです。
あなたには関係のないことだから
かおり
かおり
関係なくない!
先生が先生じゃなくなっちゃうと
私が困るんです!
私はもう夢中だった。
かおり
かおり
先生は真剣に先生をしています。
生徒想いで、数学ができないダメな
生徒にもお休みを削って専用の対策ノートを
作ってくれるくらい優しくて。
一人ひとりをしっかり見てくれて……
私の言葉を聞いた先生は、
ハッと何かを決意したように真剣な眼差しに変わった。
かおり
かおり
だから、簡単な仕事みたいに言わないで!
先生は未来をつくる仕事をしているんです!
私が言いたいことを全部を言い切ると、
黒月先生はふっと微笑みかけてくれた。
私もいつものスマイルで応える。
黒月先生のお母さん
な、なんなのあんた!
薫とどんな関係なのよ!
先生のお母さんは、
すごい剣幕で私を睨んでいる。
かおり
かおり
私は……
どんな関係なんだろう。
昨日までは家政婦さんだったけど、
今はもう……。

答えられずに黙っていると、
黒月先生が静かな声で答えた。
黒月先生
黒月先生
俺は……かおりさんと
結婚するつもりだよ、母さん
かおり
かおり
……!?
せ、先生……!?
……ど、どどどどどういうこと……!?
結婚って言った?!
先生が?私と?????
結婚!?!?!?
えええええ!?急展開すぎませんかッ!?
黒月先生のお母さん
認めません!!
どうせ遊びなんでしょう?
黒月先生は落ち着いた態度で
怒るお母さんを諭している。
黒月先生
黒月先生
俺はこの人が大切なんだ。世界で一番。
俺の気持ちは変わらない
先生……。
もう、私、先生のことわかんない……。
わかんないよ……。

でも……どうして?
こんなにたくさん涙があふれちゃうの……?
黒月先生のお母さん
……また来ますからね
ぽろぽろと涙を流す私を睨みつけて、
先生のお母さんは渋々という態度で帰っていった。

黒月先生はすぐに私に駆け寄ってくれる。
黒月先生
黒月先生
……巻き込んでごめんなさい
私は首を振る。
かおり
かおり
……いいんです。
私こそ勝手なことを言って……
黒月先生
黒月先生
嬉しかったです。
俺の代わりに怒ってくれて
ありがとうございました
先生は泣き続ける私の頭を
優しく撫でて慰めてくれた。
かおり
かおり
……先生、昨日は……
黒月先生
黒月先生
待って。俺から言わせてほしい。
昨日のことは本当に申し訳ない
先生は私に頭を下げた。
その真摯な姿に、やっぱり先生を信じて
よかったと思う。
黒月先生
黒月先生
昨日は……その……。
俺の覚悟が甘かったんです
かおり
かおり
覚悟……?
って何だろう?
私がきょとんとした顔をしていたのだろう。
先生はふふっと笑っていた。
心の彩香
心の彩香
(……先生、笑ってくれた。
よかった……)
すると――。
かおり
かおり
……せん……せい?
先生は突然
私をぎゅっと抱きしめた。
黒月先生
黒月先生
……俺、ちゃんと考えたんです
先生、震えてる……。

自分のドキドキなのか、
先生のドキドキなのか、
私にはもうわからなかった。
心の彩香
心の彩香
(……どうしよう。
心臓が破裂しそう……)
黒月先生
黒月先生
俺は……
あなたが好きです
先生が私の耳もとで囁いた。
心の彩香
心の彩香
(……うそ……)
なんでだろう。
どうしてこんなに泣いちゃうんだろう。
嬉しいはずなのに。
好きって、言ってほしかったはずなのに。
心の彩香
心の彩香
(私もって答えたら、先生の彼女になれるの……?
私、それでいいの……?
かおりへの「好き」で満足なの?)
黒月先生は何も答えない私を
腕から離して、
優しく見つめている。

先生の手が置かれた肩が熱い。

私はあふれる涙を拭って、
先生を見つめ返した。
黒月先生
黒月先生
もう泣かないで
柔らかく笑う先生も
私の涙を優しく拭ってくれる。

ふと、下を見ると履いていたパンプスが
ローファーに変わっている。

あ……。
涙、拭いちゃったから変身が解け始めてる……。
かおり
かおり
……ごめんなさいッ!
私は先生に背を向けて
無我夢中で走った。
黒月先生
黒月先生
……待って!
前もこんなことあったな……。
私はいつも先生から逃げてばかり。
先生は私に好きって伝えてくれたのに。

先生、もしかして私の本当の姿、
見てなかったのかな……。
見てたらこんなことにはならない……よね。
悲しいけど……それが現実。

――初めて変身した頃の私は、
どんな先生にも、ときめいていたな。
そんなことを思った。

今は――。
心の彩香
心の彩香
(……どうしてこんなに苦しいんだろう)
人を好きになるって、
こんなに苦しいことだったんだ……。









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