昨日の先生の言葉が、頭の中にずっとこだましている。
いつも優しい先生があんなこと言うなんて……。
まだ信じられないよ……。
でも、悪いのは嘘をついていた私。
私は怖かった。
先生にもっと嫌われることも、
酷い言葉を投げつける先生の姿を見ることも。
それと、本当の姿を知られてしまったのか
はっきり確かめることも。
ううう……。
でも、そうだよね。
ちゃんと先生と話さないと、
本当のことはわからないよね。
Go!Fight!Win!彩香!
ステキな女性はきっと勇気を持ってるよ!
私はシトラスの香りに包まれて、
女神さまに変身させてもらう。
Go!Fight!Win!
頑張れ彩香!
黒月先生を信じて、ちゃんと向き合おう!
そう決めて、私は先生の家へと向かった。
緊張しながら先生の部屋に近づくと、
話し声が聞こえてくる。
部屋のドアが開いているみたい……。
お母さん……!
そういえば、喧嘩して家を出たって
先生、前に言ってたっけ。
大きなため息をついた先生が、
私に気づいて、驚いた顔をした。
……また、先生の邪魔しちゃった。
私、どうしてこんなにタイミングが悪いんだろう。
黒月先生のお父さんって、
もしかして社長さんなのかな?
すごいお家の人だったんだ……。
え……?
先生は笑顔を作っているけど、なんだか苦しそう。
待って……。
先生、いいの?怒らないの?
それでいいの?
先生は、先生のお仕事、大切にしてるじゃん……!
なのにそんな言い方されて、それでいいの???
気づいたら、私はそう叫んでいた。
私はもう夢中だった。
私の言葉を聞いた先生は、
ハッと何かを決意したように真剣な眼差しに変わった。
私が言いたいことを全部を言い切ると、
黒月先生はふっと微笑みかけてくれた。
私もいつものスマイルで応える。
先生のお母さんは、
すごい剣幕で私を睨んでいる。
どんな関係なんだろう。
昨日までは家政婦さんだったけど、
今はもう……。
答えられずに黙っていると、
黒月先生が静かな声で答えた。
……ど、どどどどどういうこと……!?
結婚って言った?!
先生が?私と?????
結婚!?!?!?
えええええ!?急展開すぎませんかッ!?
黒月先生は落ち着いた態度で
怒るお母さんを諭している。
先生……。
もう、私、先生のことわかんない……。
わかんないよ……。
でも……どうして?
こんなにたくさん涙があふれちゃうの……?
ぽろぽろと涙を流す私を睨みつけて、
先生のお母さんは渋々という態度で帰っていった。
黒月先生はすぐに私に駆け寄ってくれる。
私は首を振る。
先生は泣き続ける私の頭を
優しく撫でて慰めてくれた。
先生は私に頭を下げた。
その真摯な姿に、やっぱり先生を信じて
よかったと思う。
って何だろう?
私がきょとんとした顔をしていたのだろう。
先生はふふっと笑っていた。
すると――。
先生は突然
私をぎゅっと抱きしめた。
先生、震えてる……。
自分のドキドキなのか、
先生のドキドキなのか、
私にはもうわからなかった。
先生が私の耳もとで囁いた。
なんでだろう。
どうしてこんなに泣いちゃうんだろう。
嬉しいはずなのに。
好きって、言ってほしかったはずなのに。
黒月先生は何も答えない私を
腕から離して、
優しく見つめている。
先生の手が置かれた肩が熱い。
私はあふれる涙を拭って、
先生を見つめ返した。
柔らかく笑う先生も
私の涙を優しく拭ってくれる。
ふと、下を見ると履いていたパンプスが
ローファーに変わっている。
あ……。
涙、拭いちゃったから変身が解け始めてる……。
私は先生に背を向けて
無我夢中で走った。
前もこんなことあったな……。
私はいつも先生から逃げてばかり。
先生は私に好きって伝えてくれたのに。
先生、もしかして私の本当の姿、
見てなかったのかな……。
見てたらこんなことにはならない……よね。
悲しいけど……それが現実。
――初めて変身した頃の私は、
どんな先生にも、ときめいていたな。
そんなことを思った。
今は――。
人を好きになるって、
こんなに苦しいことだったんだ……。
☆彡
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!