第48話

弟③
1,084
2019/10/29 17:04
[てつや視点]

あなたから弟のことを少しだけ聞いた。

寂しいだけなんだろうなって、少しだけ切なくなった。


こんなぽっと出のオレンジの髪した男に大好きな可愛い姉ちゃん取られたらそりゃ嫌だよなぁ。

どうしたら分かってくれるのか。


俺もあなたみたいに弟のことを理解して味方になってあげたいと思った。

俺もお兄ちゃんなんだぞって、言えるようになりたいと思った。

生意気なクソガキだったらあなたの弟だろうが構わず怒ろう、そう考えていた。

少しだけ憂鬱そうなあなたの顔を見て、みんなが幸せでいられるようにしたいと、

心の底から思っていた。




家に着くと意外にもお父さんとお母さんは歓迎ムードだった。


お父さんは東海オンエアの動画を見てくれたそうで笑って話してくれた。

お母さんは少しだけ気まずそうにしていた。

2人で見たのだろうか…。


下の弟は部活の合宿で留守らしい。


でも東海オンエアが好きらしく、付き合うのは反対みたいだけど俺のことは嫌いじゃないんだって。



てつや「もう1人の弟くんは?」

お母さん「あ…。学校から帰って来てすぐに部屋に入ってから顔見てなくて。」

あなた「もう…。呼んでくるね。少し待ってて。」


お父さんはテーブルいっぱいの料理をひとつずつ紹介してくれる。

このサラダはドレッシングまで手作りで、そこのお肉はてつやくんがくるからって張り切って2人で買って来たんだ、ー……。

お母さんは料理が上手くて、しばらく食べられない期間はあなたが作ってくれてて…。と。


仲が良いのがわかる。


お母さんの照れくさそうな顔はあなたそっくりだった。


二階からは話し声がした。

聞き取れはしないけど怒鳴り声のような声と普段聞くことのないあなたの怒った方が聞こえる。


てつや「二階、上がっても大丈夫ですか?」

お母さん「…あの子があなたにべったりなのは私のせいで、本当ごめんね、口は悪くなるかもしれないけど自慢の息子なの。本当は優しい子だからきっとてつやくんの良いところに気付けると思うわ。」

お父さん「いや、かまってやれなかったのには俺にも…。」


笑ってはいたけど少しだけ寂しそうに辛そうにしていた。







てつや「あなた、俺も話したい。」


そう言ったときにはあなたは大きな目からぽろぽろと涙を流していた。

ハッとして涙を拭ってごめんね、と笑った。

人のために無理をしてしまうのがこの家族の悪いところなのかもしれない。

俺は出せる限りの声で扉の向こうの弟くんに怒鳴った。


てつや「お前にとって大事な姉ちゃんだって事は分かる、でもそれと同じように俺の大事な彼女でもある、大事なら泣かせんな。」

そういうと扉が勢いよく開いた。

弟「俺は…俺の方が姉ちゃんの事大事に思ってる、シスコンだって言われようがなんだろうが、泣かせてでもお前みたいなやつに取られたくねーよ。」

目鼻立ちのくっきりした、あなたと同じ目の色をした背の高いやつがそう言った。

弟でよかったよ。見た目だけじゃ確実にかなわなかった。

てつや「取る気はない。東京に来たらあなたの実家に顔を出すのもいいし、一緒に飯に行くのだってきっと楽しい。岡崎にだって遊びにくればいい、美味しい飯連れてくし、あなたが泣いてまで俺に会わせたがった弟ならきっといい奴だし友達にだって紹介したい、だから…。」

弟「友達なんていらない、俺の理解者はいつだって姉ち…。」


てつや「お前はあなたばっかり見ててお父さん達の優しさに目を向けられてないんだよ。テレビの周りに飾ってあった写真も玄関にある賞状も、工作も、愛のない相手なら捨てるだろ。さっきだってお前のこと優しい自慢の息子だって言ってたんだよ。」


あなたは拭えきれないほどに涙を流して弟を見ていた。

あなた「パパもママも弟もあなたが大好きなんだよ、私と同じくらい。てつやさんだって仲良くなりたいからしっかり怒ってくれてるの。どうでもいい相手に怒ったりしないんだよ。」


そこまで言うと弟は、

弟「…今日は飯いらない。…また今度顔だして。」

と言ってくれた。



不器用なだけなの、と言って少しだけあなたが笑うから安心した。


リビングに戻るとお父さんとお母さんが心配そうに顔を見た。あなたは泣いたってすぐに分かる顔をしていたから、お父さんはちょっと叱ってくると言って席を立とうとした。

あなたはそれを止めて、きっと次は来てくれるよ。と言った。






お母さんのご飯はどれも美味しくて、暖かくて、こんなご飯を毎日食べている弟くん達は幸せなんだろうと、思った。


てつや「弟君にご飯運んでもいいですか?少しだけお話してきます。」

やっぱりお父さんとお母さんは心配そうな顔をしたけどあなたは笑ってた。





てつや「ご飯、まだ暖かいぞ。」

弟「…来んなよ。」

てつや「いい家族やん。」

弟「……。」

てつや「仲良くしような。親とも、俺とも。」

弟「まだ認めてないからな。…でも、ごめん。」



こんなに嬉しい「ごめん。」は初めてだった。


てつや「岡崎来たら飯何食いたい?」

弟「ラーメン。」

てつや「…動画見てる?」

弟「姉ちゃんより早く東海オンエア知ってた。」

てつや「それはやばいな。」

弟「……反対すんのも仕方ないだろ。」

てつや「確かに。笑」

弟「…フッ。」

てつや「今笑った?笑」

弟「笑ってねーし。」

てつや「ちなみに今はあなただけだから。早く岡崎遊びに来いよ。」

弟「しばゆーに会いたい。」

てつや「しばゆーかよ!!!」

弟「早く戻れよ。喧嘩してると思われんだろ。」

てつや「あ、確かに。じゃ、約束だから、絶対な!」

弟「…おう。」



男と約束してこんなににやけたの初めてだった。



まんぷくやに行く約束をしたと言ってピースサインをするとお父さんとお母さんは顔を見合わせて喜んでた。あなたは当たり前でしょと言わんばかりのドヤ顔をした。



でもしばゆーが1番好きなのか…。

プリ小説オーディオドラマ