第11話

そして地獄は繰り返す。
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2019/10/26 12:47
今日は、部屋の電気の紐を見ていた。
虫のように扱われて、私は一体何なのだろうか、という自問自答を繰り返していた。桃瀬には、私が虫に見えるのだろうか。いや、きっと私の周りの人はみんな、私を虫のように感じるのだろう。
空中に垂れ下がる電気の紐に手を伸ばして、下についているビーズくらいの飾りを爪で弾いた。何も考えずに、同じことを繰り返す。その行動に特に意味は無い。ないけれども、その行動は、やけに私の心を落ち着かせた。
呉羽
呉羽
(今は、何も考えない方がいい。)
嫌なことを思い出して、一体何になるというのだ。心の中が冷たく、苦しくなるだけだ。一人であることを実感するだけだ。
本は明日読むことにした。今日読まなくとも、本は私を怒らない。表紙を開けば、何も言うことなく私を出迎え、新たな世界へ連れていってくれる。
本当は寝たくないけれど、仕方ない。寝らずとも明日は来る。それならば、早めに寝てしまおう。
今度こそ電気の紐を引っ張り、部屋を暗闇で包んだ。
呉羽
呉羽
(まるで、私の人生のよう。)
そして地獄は、繰り返す。
朝は、必ずやってくる。目を覚ませば外は明るくて、雀が鳴いていて、下からはお母さんの声が聞こえて。あぁ、私生きてるんだ、って毎日思う。
呉羽
呉羽
はぁ。
生きている、本当は喜ぶべきであろうその言葉は、私にとって重く邪魔な枷でしか無かった。その言葉一つで、私がどれだけ心を病むか。その一言が、私にとってどれほど絶望の象徴であったことか。
朝の家は、バタバタしていて、特に何も無い。けれど私にとって、登校する時は地獄だった。
呉羽
呉羽
あ・・・。
通学路を歩いていると、前に花楓かえでさんがいた。花楓さんの、その友達。確か名前は、みなえさん。漢字までは知らない。
そして、花楓さんの存在こそ、私にとって地獄の入口だった。
花楓さん。
あっ!呉羽ちゃんだ、おはよう!
花楓さんは、私にすぐ気づく。傍から見れば、仲のいい先輩と後輩の朝、だろう。けれど実際、そんな事ない。
呉羽
呉羽
おはよう、ございます。
消え入る声で呟くと、花楓さんが手に持った鞄を見せてくる。
花楓さん。
今日ね、調理実習なの!それと、体育もあるんだよ。だから──持って?
私が何を言うまでもなく、腕には花楓さんの鞄が二つ。小さいのと、大きいの。小さい方は、調理実習の材料。大きい方は、体操服一式。
花楓さん。
じゃあ行こー。
私には目もくれず、友達と並んで歩いていく。この鞄を捨てたい。でも、そんなことしたら・・・。
花楓さんには、ある伝説があった。花楓さんは、学年でも権力を持っていて、花楓さんには逆らえない。これまでも、三人を不登校にしている。そんな花楓さんに逆らえば、二つも学年が下の私なんて。多分、消される。それが怖くて、逆らえなかった。それを良いい事に、私は花楓さんの荷物持ちになった。
呉羽
呉羽
(死にたい。)
重たい鞄を持ちながら、ただ一つだけ、そう思った。

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