クラスメイトたちと話に花を咲かせていたら、遠くから何か言っていた百瀬が、いつの間にか私の隣に来ていた。
きっと百瀬は、構って貰えなかったのに腹を立てたんだろう。私の机を両手で思い切り叩いて、その場を静めさせた。
あたかも被害者のように言うけれど、私は名指して話しかけられてもいないし、その内容だって、独り言って捉えられてもおかしくないものだった。
一応謝って、百瀬の話を聞こうと尋ね返した。
私の僅かな思いやりも、百瀬は全て払い除ける。誰かが、百瀬は親から構って貰えないから、寂しくて構ってちゃんをしてくるんだって言ってた。だから、私にも一々文句を言って絡んでくるんだって。
だけど、私がどれ程優しくしたって、百瀬はその言葉を全て跳ね除ける。拒絶しているのは百瀬なのに。
そして、最後に朱蘭の名前を出す。
そう確信して、私は思わず下を向いた。きっと、折角話しかけてくれたクラスメイトたちも離れていく。私のことを、見て見ぬ振りをする。
初めに声をかけてくれた子が、百瀬に言い返した。そんなことをしてくれる人も、あんなことを言ってくれる人も初めてで、俯いていた顔を上げた。
私の目の前で、百瀬とクラスメイトたちの喧嘩が繰り広げられる。
私のせいで。私が、ここにいるせいで。
百瀬は、ニコッと笑いながら私を見た。
何を言い出したかと思えば、また私の悪口だ。しかも、嘘の。全部嘘なのに。
私が百瀬にやられたことを、百瀬は私がやった事として話し始めた。その現状についていけず、目を見開いて固まってしまった。クラスメイトたちは、私と百瀬の両者を疑いの目で見ている。今、何かを言わないと。無実だって言わないと、百瀬が被害者になる。
わかっているのに、口が動かない。言葉が出てこない。声が出ない。
クラスメイトは、私に聞いた。だけど、それに応えたのは百瀬だった。
信じ始めたところで、百瀬はまた泣き真似をする。上手だ。泣くのだけは、上手い。それを見て、クラスメイトたちは百瀬の背中をさする。そして、優しさに満ちた瞳と声を百瀬に向ける。
私には勿論。
そんな視線が送られてきた。
さっきまでの態度はどこに行ったんだろう。きっと、あのクラスメイトたちは虐めを目の当たりにしたのが初めてだったんだ。だから、虐めっていう言葉に驚いて、その具体的な内容に驚いて百瀬を、ただ泣いているという理由だけで信じた。
何も言わなかったのが悪い。悪いけれど、私は百瀬に逆らうのが怖い。目の前にいる沢山の人に話すのが怖い。口を開くのが、声を出すのが怖い。
だけど、私のそんな思いがまた、私の首を絞めていく。早く死ね、早く消えろと、そんな視線だけが注がれる。
多分これが、私の運命。
幸せなんて、やってこない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!