なんで?どうして?取り留めもない疑問だけが私の全てを支配する。感動や興奮なんてものじゃない。この瞬間の私は、ただ純粋な疑問だけを抱いていた。理由だけが知りたかった。だけどその理由なんて、気付かないふりをしていただけで、蓋をしていただけで、ずっと前から気づいていた。そしてそれは、私の中にも存在していることにも。
椅子に座ったまま、何度も何度も瞬きをした。ころころと変わるゲーム展開。一方が湧いては一方は悲鳴にも似たそれを口にする。天国と地獄が同じ空間に存在するかのような、理解の及ばない、未知なる世界が広がっているようで。
自分の中に生まれかける衝動を抑えるように、同じ言葉を胸の内で反芻する。それが自分への枷となるように。自分で自分に呪いをかけるように、何度も何度も。
それでも、目の前の景色は、音は、確かに私の生きる次元に存在して、私の目で見て私の耳が聞いて、私の心が震えたんだ。
人は皆身勝手で、他人なんて所詮他人。自分とそれ以外しか存在しない意識空間の中に生を持つ、哀れな生き物。
そのはずだった。そうであることが、私の中での真実だったのに。
フィールドを駆ける人間は、自分のために声を枯らし手を叩き、お金や時間を消費してくれる人のために。観客席にいる人間は、自分たちの代わりに戦ってくれる選手のために、夢を背負い生きてくれる選手のために。
そんな共存世界が、そこにあった。
私の中にあった、暗くて、誰もいなくて、寒くて、居心地が悪くて、泣けなくて、笑えないそんな世界にも、明るくて、沢山の人がいて、暖かくて、ずっとここにいたいと思える場所があって、泣いたり笑ったりしている人がいる、そんな世界が存在したのだと、今日、この日、身をもって知った。
そして、私の世界は音を立てて完全に崩落した。
今まで真実と思ってきたものは全て私のこじつけで、空想に過ぎないかもしれないもので。それでも、苦しかったのは事実で、助けて欲しくて。居場所が欲しくて。
誰かのために戦える。人は、そんなに綺麗な言葉一つで片付けられる存在じゃない。それでも、この日の私にとっての人間は、人間が思う以上に尊いものなのだと、勇気も力も希望もある、何より、雄大な愛と他を受け入れ尊重する心がある生き物である、と。そんな認識でしか無かった。
ああ、生きたい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!