その日の放課後、玄関へ行くために階段を下りていた私の隣に桃瀬がやってきた。桃瀬の後ろには、今日の昼休みのあの人たちもいた。
嘘、あの時はあんな目で見てたのに。まるでゴミを見るように。死ねって言ってるように。人はすぐ、嘘をつく。
だけど私は、その嘘を信じてしまう。心が、弱いから。
一度だけ、桃瀬の言葉を聞かなかったふりをしたけれど、桃瀬を後に回してしまったら、昼休みと同じようになる。そう思って、本当なら優先したいクラスメイトたちとの会話を無理やり終えて、桃瀬の方を向いた。
何も、してないのに。
私は、桃瀬に叩かれた。
クラスメイトたちは、半分が驚いた顔をしていて、残りの半分は笑っていた。笑っていたのは、グループ内でも強い力を持つ権力者たち。きっと桃瀬が、嘘をついたんだ。そしてそれを信じて、私を嵌めたんだ。
私の脳内が瞬時にそこまで考えを巡らせた。
そう聞く私の声は震えていた。お父さんに叩かれた時も、声が震えて涙が止まらなくなる。それと同じように、涙が止まらなかった。折角我慢してきたのに。
桃瀬も私と同じように涙を流しながら、階段を駆け下りて行った。桃瀬が泣く理由なんて、ないはずなのに。
下から、桃瀬の泣く声が聞こえる。先生に向かって、何か講義の声を上げている。それと同時に、先生のどこか困ったような声が聞こえる。
私が下へ行くと、先生が私を見て言った。なんだか、警察に捕まった人みたいだと思った。
きっと今回も、私が何を言っても通じないんだろうな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。