第13話

私は、何がしたいのか。
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2019/11/02 12:10
そうやって、私の傷は増えていく。目には見えないけれど、私の心にはしっかりと、いくつもの傷が生まれていた。それを庇うことも出来たかもしれない。だけどその時の私には、自分で自分を守るなんて考え、存在しなかった。
その内私は、独り言さえ言わなくなった。家族と話すのも必要最低限のこと。私の気持ちには誰も気づいてくれない。いや、気づかせてはいけない。私が誰かの心の中にいてはいけない。心配させたり、煩わしく思わせたり、させてはいけない。私は、そこに存在して存在しない私でなければならない。
その思いが、いつしか心の中の私にまで伝わって、自分で自分を理解することも、慰める事もやめてしまった。誰からも心配されたくない、関わりを持たれたくない。
日に日にその思いは増して、言葉というものが、私の口から出ることは少なくなった。
私は、何を見ても何も思わなかった。
いや、何も、というのは言い過ぎかもしれない。けれども、私は感情というものすら、どこか遠くに投げ捨てたようだった。
花を見ても、虫をみても、人を見ても、本を見ても、なんとも思わなくなった。面白いとも、苦しいとも、悲しいとも、楽しいとも、嫌だも、嬉しいも、好きも、頑張れも、疲れたも、何も、思わなかった。
ただ、過ぎていく時の流れに逆らうことなく流されていくだけ。そんな日々を送るようになった。
そのせいか、学校での私の様子は、先生たちから見たら、自分の意思を持たない大人しくて先の不安な子、という位置付けになっていたらしい。通知表に書かれる言葉も、道徳の時間に私に対して書かれる印象も皆同じ。
「何に対しても真面目で、大人しくて良い子。」
そんなの、本当の私じゃない。けれども、本当の私じゃない私が、いつしか本当になろうとしていた。真面目なわけがない。とりわけ、生きることに対しては真面目じゃない。
大人しくもない。なかったはずだ。ただ私は、人と交流をすることが嫌だっただけで。発表をするのも、みんなをまとめるのも、小さい頃は率先してやっていた。だけど今は違う。人前には出たくない、誰かの目につきたくない。
私は、真面目な子。大人しい子。
そんなのつまらない。つまらないけど。
虐められて、それから逃げた弱い私に残された選択肢はその一つだけ。そこから逃げることは出来ない。
だから、大人しく受け入れるしかない。
自分を、殺して。

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