職員室の横にある、多目的室という名の全く使われない空き教室に案内されて、そこで私は呆れた表情の先生から、やりもしていない事で怒られた。私は虐めたことなんてない。寧ろ逆なのに。
初めて聞かされたことに、驚きよりも呆れを覚えた。一体どれほどの手を使って私を苦しめようとするのか。そんなに私を苦しめて、何が楽しいというのだろう。先生は、本当のことなんて何も知らないのに、たった一人からそれを聞いただけで、私に事実確認をすることも無く私を責めるなんて。どれ程無能なんだろう。
そう思った途端、目の前にいる先生がただの玩具のように思えた。口を開いて顎をカタカタと震わせて、表情をコロコロと変える気持ちの悪い玩具。
先生はずっと何か言っているけど、特に話も聞かずにその場に合うと思われる返事を適当に返す。そんな薄い言葉を聞かされたって、何も感じるものは無い。ただ、突っ立っている足が痛いけど。
こんな人生、終わらせたい。虐められることが辛いことは、私がよく知ってる。この身をもって知ってる。あんたなんかよりずっと。あんたには、私の心は読めない。私の傷は見えない。
私は、もうこれからあんたを先生として見る事をやめます。もう二度と、あんたを先生だとは思わない。腐れきった玩具。可哀想な。
心の篭っていない、薄い返事をして部屋を出た。廊下の窓から、茜色が差し込んでいた。いつの間にか、夕方になっていた。そんなに長く話をしていただろうか。
そう思いながら、もう誰も見えない廊下を一人で歩いた。
下駄箱から靴を取り出して、床に強く落としながら呟いた。私以外誰もいない玄関に吸い込まれていく声は、寂しそうで、悲痛で、悲しみに溢れていた。いつしか、そんな声しか出せなくなっていたことに、深くため息をついた。
そう確信しながら、下を向いて歩き出した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!