第18話

先生。
115
2019/12/18 11:01
先生。
あのね。呉羽さんね、そろそろ人を虐めるのやめなさい。
呉羽
呉羽
私は・・・してないです。
職員室の横にある、多目的室という名の全く使われない空き教室に案内されて、そこで私は呆れた表情の先生から、やりもしていない事で怒られた。私は虐めたことなんてない。寧ろ逆なのに。
先生。
そう言ってもね、桃瀬さんが何度も相談してきてるんだよ。
呉羽
呉羽
(いつの間にそんなに言ってたの・・・。)
初めて聞かされたことに、驚きよりも呆れを覚えた。一体どれほどの手を使って私を苦しめようとするのか。そんなに私を苦しめて、何が楽しいというのだろう。先生は、本当のことなんて何も知らないのに、たった一人からそれを聞いただけで、私に事実確認をすることも無く私を責めるなんて。どれ程無能なんだろう。
そう思った途端、目の前にいる先生がただの玩具のように思えた。口を開いて顎をカタカタと震わせて、表情をコロコロと変える気持ちの悪い玩具。
呉羽
呉羽
(あーあ。玩具が何を言ったって、意味ないよ。)
先生はずっと何か言っているけど、特に話も聞かずにその場に合うと思われる返事を適当に返す。そんな薄い言葉を聞かされたって、何も感じるものは無い。ただ、突っ立っている足が痛いけど。
先生。
本当に、そろそろ自分でもわかるでしょ?
呉羽
呉羽
(何が?分かるわけないでしょ?私は何もしてないんだもの。)
先生。
そんなに誰かを傷つけて、楽しい?
呉羽
呉羽
(知らないよ。私は傷つけたりしてる自覚は無いもの。傷つけられているのは私の方だと思う。そんな私に、そんなことを聞いたって。)
先生。
自分がされたら、嫌でしょ?
呉羽
呉羽
・・・嫌です、凄く。
こんな人生、終わらせたい。虐められることが辛いことは、私がよく知ってる。この身をもって知ってる。あんたなんかよりずっと。あんたには、私の心は読めない。私の傷は見えない。
先生。
そうでしょ?だからもうやめなさい。
呉羽
呉羽
・・・はい。
私は、もうこれからあんたを先生として見る事をやめます。もう二度と、あんたを先生だとは思わない。腐れきった玩具。可哀想な。
先生。
じゃあ、また明日。もう絶対したらだめだからね。
呉羽
呉羽
・・・はい。
心の篭っていない、薄い返事をして部屋を出た。廊下の窓から、茜色が差し込んでいた。いつの間にか、夕方になっていた。そんなに長く話をしていただろうか。
そう思いながら、もう誰も見えない廊下を一人で歩いた。
呉羽
呉羽
みんな、死んでしまえ。
下駄箱から靴を取り出して、床に強く落としながら呟いた。私以外誰もいない玄関に吸い込まれていく声は、寂しそうで、悲痛で、悲しみに溢れていた。いつしか、そんな声しか出せなくなっていたことに、深くため息をついた。
呉羽
呉羽
(きっと私は、もう前の私には戻れないんだろうな。)
そう確信しながら、下を向いて歩き出した。

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