第13話

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2021/08/11 23:50
晴人
晴人
ちょっとまっててね!
ノワール
ノワール
…あぁ。
ガチャッ…と部屋を出ていった晴人は走ってキッチンへ向かっていった。
…あの後、人の目もあった為、晴人の家に訪れた。

この短時間で分かったことがある。

麻峯晴人…。
こいつは俺が死神になる前…つまり人間だった時に付き合っていた男。

そしてもう1つ…俺の名前だ。

俺が人間だった時の名前…それは「琉華」であった。


それだけが唯一思い出せた情報だった。
晴人
晴人
おまたせ!ご飯、食べよ!
ノワール
ノワール
ッ…ぁ…俺、飯はッ…
晴人
晴人
ダメだよ!こんなに痩せちゃってッ…、ちゃんと食べないと!
トンッ…と美味しそうな匂いをさせるオムライスが置かれた。
晴人
晴人
はい!あ〜ん。
ノワール
ノワール
まッ………んッ…!
制止しようと開いた口にスプーンが突っ込まれる。
吐き出すわけにも行かず、咀嚼して飲み込んだ。


あ、れ…気持ち悪くない…。なんでッ…。
晴人
晴人
…美味し?
ノワール
ノワール
…あぁ。美味い。
晴人
晴人
ほんと?よかった。
晴人はホワッ…と微笑んだ。

なんで忘れていたんだろう。晴人のことも、自分のことも…。
晴人
晴人
…信じなくてよかった。
ノワール
ノワール
…何を?
晴人
晴人
…俺ね、琉華るかが死んだって聞いても、ずっと信じきれてなかった。ずっと、ずっと疑い続けてきたんだ。だって、死んじゃったところ見たわけじゃなかったから。何かの間違いなんじゃないかって。
ノワール
ノワール
ッ…俺、死んだの…。
晴人
晴人
…覚えて、ないの?
ノワール
ノワール
あぁ。…記憶が、無いんだ。
晴人
晴人
そっか…。じゃあ、その話はまた今度しよ!今は楽しい話がしたいな。…久しぶりに会えたんだから。
ノワール
ノワール
…あぁ。そうだな。
俺はスプーンに手を伸ばし、口に運んだ。
美味い。

…懐かしいな、人間の頃もこうやって晴人の手料理を食べていたんだろう。
晴人
晴人
…ねぇ、琉華は今まで何してたの?
ノワール
ノワール
今まで…?
晴人
晴人
そう。今、俺と会うまでの話。聞きたいな。
ノワール
ノワール
……そうだな。……長い…長い夢を見てた。
晴人
晴人
…夢?
ノワール
ノワール
あぁ。
お前のことを忘れるくらい辛くて、幸せな夢だったよ……。




晴人
晴人
吸血鬼に死神……随分とファンタジーな夢だね。
ノワール
ノワール
あぁ…ほんと……どうかしてるよな。
俺が見ていた長い夢の話をすると、晴人は小さく笑った。
晴人
晴人
んで、琉華くんはこんなにも素敵な恋人がいるのに夢の中で吸血鬼くんと浮気してたと。
ノワール
ノワール
俺がしたんじゃない、ノワールがしたんだ。
それに…吸血鬼とは付き合ってた訳じゃない。
晴人
晴人
ノワールも琉華も同一人物でしょ、誤魔化さないの。それに……つまりキスなら幾らでもしていいと?
ノワール
ノワール
…すみませんでした。
晴人
晴人
よろしい。
晴人はニコニコと微笑み、頭を撫でてきた。
晴人
晴人
次そんなことしたら拳だからね!
ノワール
ノワール
分かった、もうしないからその拳、しまってくれ。
晴人
晴人
ん、絶対ね?
晴人が拳を引っ込めようとした瞬間、袖がずれて晴人の腕が見えた。
ノワール
ノワール
ッ…!!
晴人
晴人
ん?どうしたの、琉華。
ノワール
ノワール
いや……ッ…ごめん、
晴人
晴人
なんで、謝るの…?
ノワール
ノワール
…………
晴人
晴人
…?
一瞬見えた晴人の左腕…。

そこにはカッターで切りつけたような大量の傷跡があった。




晴人
晴人
じゃあね!また来てね!
ノワール
ノワール
あぁ。…ありがとう。
ガチャッ…と晴人の家から出ると、ポケットの通信機に連絡が入っていた。
「おい、ノワール。なにをしている。さっさとターゲットの魂を狩ってこい。」


ターゲット…?

あ、れ……俺、なに、してんだ…?
ノワール
ノワール
ッ……ちが、ぅッ…
違うッ、違うッ…違う違う違う違うッ…!

それは、全部夢でッ…、俺はノワールなんかじゃないッ…、死神なんかじゃないッ…。

俺は、人間なん、だ…。
だから…晴人はッ……晴人は、ターゲットなんかじゃッ…、
その時、ポケットに入れていた紙が手に触れた。

《ターゲット情報》
【名前】麻峯晴人(アサミネ ハルト)
【性別】男
ノワール
ノワール
ぁッ……、
その紙を見た瞬間、体から力が抜けた。


何、浮かれてんだ。

呑まれるな、しっかりしろ。

俺は、もう琉華じゃねぇ。

死神・ノワールなんだ。



俺は今日、晴人の魂を狩りに来たんだ。
ノワール
ノワール
殺さ、ないと…。









夜。
俺は窓から晴人の家に侵入した。
階段をゆっくり上がっていき、「はると」と書かれた部屋の扉を静かに開けた。
ベッドの中に居た晴人は幸せそうに眠っていた。
ノワール
ノワール
ッ……
鎌を持つ手が震え、逃げそうになってしまう。
こんなので切ったら…痛いよなッ…、苦しいよな…。

痛くないように、する、からッ…。
晴人
晴人
スー…スー…
ノワール
ノワール
ッ…はぁッ…、はッ…、ごめ、んッ…ごめんな、さぃッ……
俺は、カタカタと震える手で鎌を振り上げ、晴人の首に振り落とした。
ガンッ!!
ノワール
ノワール
はぁッ…はぁッ…ッ…ッ…ぅッ……
晴人
晴人
ん……、ぇ…な、に……、……え!?琉華!?
ノワール
ノワール
はる、と……、
晴人は俺の姿を視認した瞬間、バッと上半身を起き上がらせた。

ベッドを見ると、俺の振り下ろした鎌は晴人に当たることはなく、床に投げ捨てられていた。

俺には、晴人は殺せない…。無理だ、殺せるわけないッ…。
晴人
晴人
ッ…なんで…、
ノワール
ノワール
ごめんッ…
晴人
晴人
違うよッ…、何も怒ってない…。そうじゃなくてッ…なんで、泣いてるの…?
晴人に言われて初めて気がついた。  

俺の頬にはボロボロと大量の涙が溢れていた。
晴人
晴人
ッ…どうしたの…?琉華。
ノワール
ノワール
…………
俺は晴人に体を預けるようにして倒れ込んだ。
ノワール
ノワール
ごめんッ…、晴人ッ…、
晴人
晴人
ん…、落ち着いて…、大丈夫だからッ…。
ギュウッ…と体を強く抱きしめられ、更に心が痛くなった。
やめてくれ…、俺はお前を殺そうとしたんだ。
優しくしないでッ…、分からなくなるから…。


晴人
晴人
どう?落ち着いた…?
パチッ…と電気を付けた晴人がそう聞いてくる。
ノワール
ノワール
…………。
晴人
晴人
琉華ちゃ〜ん、喋らないと分からないよ…?
ムニ……と頬をつままれる。
ノワール
ノワール
………、
晴人
晴人
るーか。
ノワール
ノワール
…………
晴人
晴人
るかちゃん〜、お口無くなっちゃった〜?
晴人がそう言うと、
俺の唇に晴人の人差し指と中指が当てられる。
ノワール
ノワール
……もう、平気。
晴人
晴人
そっか、良かった。…ちょっと待っててくれる?
ノワール
ノワール
…ん。
晴人は部屋から出ると下の階へ行ってしまった。
枕の下へ少し手を動かすと、何か固いものが当たった。
それを枕の下から引っ張る。
ノワール
ノワール
………これッ…
引っ張り出したそれは、カッターナイフだった。
ふと、昼間の晴人の傷を思い出す。

左腕にだけついていた妙な傷。

あれはやっぱり……、
晴人
晴人
琉華ちゃんのエッチ〜、恋人のベッドの上漁るなんて〜。
ノワール
ノワール
う、ぇ!?は、晴人ッ…!
ドアの前には晴人が立っていて、ジィッ…と俺を見つめていた。
ノワール
ノワール
こ、これはッ…だな、
晴人
晴人
もう誤魔化しようもないでしょ…笑
ほら、そんなの置いてこっち来て。
ノワール
ノワール
…ん。
俺はカッターを戻し、晴人の方に向かった。
晴人
晴人
はい、これ。琉華がずっと好きだったホットココア。夜に目さめちゃった時とか一緒に飲んだんだけど…覚えてるかな??
晴人は俺にマグカップを手渡した。
ノワール
ノワール
…覚えてない。
晴人
晴人
そっかそっか。飲めば思い出すかな?
晴人は1口ココアを飲む。
俺もカップに口を付け、温かいココアを1口飲んだ。
晴人
晴人
…美味しい?
ノワール
ノワール
うん。……美味い。
覚えてないはずなのに、懐かしく感じる…。
晴人
晴人
良かったぁ。
琉華、悩み事ってある?
ノワール
ノワール
…特に、は。
…俺の話より、晴人の話が聞きたい。
晴人
晴人
えぇ〜ッ…俺の話?う〜ん、何が聞きたい?
ノワール
ノワール
…………さっきの……、
晴人
晴人
そうなっちゃうよね…。分かった。話すよ。
ノワール
ノワール
ありがとう…。
晴人
晴人
うん。…懐かしいね。昼間は楽しい話をして、夜は辛い話とか悲しい話するの。
ノワール
ノワール
そう……なんだ。
晴人
晴人
覚えてないかぁ…、まぁ仕方ない!
晴人は静かに自分のことを話し出した。

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