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第10話

八月の雪
9時間のフライト。最新の機械を使った顔認証のスムーズな入国審査。この程度で別の国に行けた気がしない。それは心ここにあらずな俺だからだろうか。物珍しい動く歩道に乗る。
金額表記が違う売店を抜ける。Have a nice dayと書かれたゲートを潜る。空港を出るまであと自動ドア一つ。そこに立つ。
すると冷たい風が吹きつけてくる。猛暑に慣れ切った体が悲鳴を上げる。
「雪だ」
俺は空に目掛けて手を掲げる。
「雪だ」
すぐに白銀の世界に目を奪われる。
「雪だ」
俺は目の前の事実が真実だと確信する。ポケットに入っているスマホを取り出す。
8月23日。
「本当に降った」
思わず宙に吐き出た言葉が白く染まる。
「八月の雪だ」
もう彼女はいない。もう誰も救ってはくれない。それでも進む。俺はここで進むよ。
ありがとう。
俺は涙を流していた。流した涙は暖かかった。

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