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第7話

盲目
「日本全国で猛烈な暑さを記録しています」
テレビのアナウンサーが喋っている。俺は仕事が一段落していたので有給というものをいただいた。それなのに今は仕事がしたくてたまらない。この気持ちは遠距離恋愛しているカップルが互いを想うそれと似ているのだろうか。前とは違う意味で社畜じゃないか。俺は自分で突っ込んで笑っていた。
「ノブ。どうしたんだい。急に帰ってくるわ、一人でニュース見ながら笑ってるわ。本当にどうしたんだい」
俺は実家に帰っているのだった。
「どうもしてないよ」
気持ちが空と同じぐらい晴れ晴れとしている。こんな気持ちで実家に帰る日が来るとは一度も思わなかった。すべて彼女のおかげだ。実家に帰ったのは彼女について何か知れるのではないかと考えたからだ。なぜ手紙を交換したのか。彼女が今何をしているのか。仕事のことも彼女のおかげだ。仕事のことも考えるがそのたびに彼女がフラッシュバックする。頭が彼女のことで咲き乱れている。これこそ遠距離恋愛のカップルが互いを思うそれじゃないか。少し恥ずかしくなってきた。それでも今はただ会いたい。会って話がしたい。ありがとうと言いたい。彼女が困っているなら力になりたい。俺を救ってくれたのは彼女だから。
「信彦、来週が命日だからね」
昼の明かりに相反するような話題を切り出される。
「誰の」
「何のんきなこと言ってんの。そのために帰ってきたんじゃないの」
一体母は何の話をしているんだ。
「宙ちゃんってあんた仲良かったじゃない」
そ、ら。
「小学校の時毎日のように遊んでたじゃない」
遊んでいた。
「なんか突拍子もないこと言う子だってあんた大好きだったじゃない」
大好き。
「あんた。忘れたの」
高校1年のころ同じく暑い日が続いてた時、母から宙がなくなったと聞いた。俺は1日中泣いた。涙が出すぎて目の玉ごと流れるのではないか。そのくらい泣いていた。思い出した。俺を救ってくれていた彼女の名前は姫川宙。もう何年も前に亡くなっている。
『人間、嫌なことは忘れるようにできてんだから』
いつだか上司に言われたことを思い出していた。頭の中は意外とクリアだった。思考と体は同じ動きをするとは限らない。
俺は涙を流していた。徐々に思考が体に追いつく。
彼女はもう死んでいた。
彼女はもう死んでいる。
彼女にはもう会えない。
彼女とはもう話せない。
彼女と昔のことを話すことも、どうして手紙を交換したのかも、もうわからないままだ。
俺はどこかへ消えてしまいたくなった。

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小林捺哉
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小林捺哉
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