「おい」
集中していたパソコンから目を離し、呼ばれたほうへ体を向ける。
「頼んでいた資料できているか」
「あ、はい」
反射的に引き出しを開けそこから資料を取り出す。
「これA社とB社の比較資料だろ」
「はい」
「俺が頼んだのはB社とC社の比較資料だよ」
上司の言葉にイラつきが混ざる。
「すみません。すぐ修正します」
これで何度目のミスだろう。大した能力もないのに仕事は増えるばかり。
「しゃきっとしろよ。もう社会人何年目だよ」
幾度となく浴びたセリフなのにまだこいつは俺の心に傷をつける。
「人間、嫌なことは忘れるようにできてんだから。気をつけろよ」
じゃあ解決方法を提示してくれよ。
「すみません」
思ってもいない言葉で場を収める。仕事なんてどうでもよくなってきた。そうは思いつつも、C社の資料をクリックする。こんな毎日が続く。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。